ママのおまじない(no.96〜no.100)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

96.保健室

学校の保健室ってお兄ちゃんにとっては、けがした時に消毒してもらったり、身体検査でお世話になったりと親はほとんど入ったことのないエリアだった。
ところが、ゆきが小学生になってからは、特に2年生になってからは、私もほとんど毎日、保健室に通っている。

この冬の寒さの厳しい時期は、一日を教室だけで過ごすのは、かなり身体にも心にも負担がかかる。
ほんの30分でも1時間でも保健室のベットで横になれたら、みんなと離れた静かなところで、ゆっくり過ごせたら・・・
そうずっと思っていた。
夏におきた不整脈から、そんな願いを叶えてもらっている。

「つらくなったら、保健室にいつでもおいで!」と優しい笑顔で言ってくださる養護の先生と、
ゆきの訴えを受け入れて、保健室に送りだしてくださる担任の先生に
心から感謝の日々である。

体育は、保健室で算数や国語のプリントをやって過ごし、帰りは、また保健室で私のお迎えを待つというように、今のゆきの学校生活は、教室と保健室の2本立てでなんとか登校できている。
来年度、もし、担任や養護の先生が代わったら、こんなにスムースにはいかないかもしれない。
そうしたら、今度は私の出番。
わかってもらえるように、受け入れてもらえるように・・・心からお願いするだけだ。

保健室・・・いつもありがとう!これからもよろしく!

97.障害者手帳

手のひらサイズのエンジ色の手帳。
表紙には「身体障害者手帳」と書かれている。
この名前、なんとなく重々しくて、苦しくなる響き。
素直に考えると、その通りなのだが・・・

ゆきは、1歳になったばかりのころ、取得した。
名前だけは知っていたが、まさか自分の子が持つとは思ってもいなかった。
同じ病院のお母さんに「使えるものは、使った方がいい!」と言われ、夏の暑い日、市役所に駆け込んだのを昨日のように覚えている。
主治医から診断書なども書いてもらい、手続きが済んだ。

できてきたのは、
※ 疾患による心臓機能障害1級
正直、とても衝撃的だった。
「1級か・・・てことは、一番悪いのかな・・・」
「そろばんや習字の1級ならうれしいけど・・・」とかなり動揺した。

そのとなりには、ゆきの写真が貼られている。
首がまだ座らないころの小さなゆきの写真。
1級という文字と赤ちゃんのゆきが重なり合って、手帳を見ながら、涙がでてきた。
これから未来のある子に「障害、1級」は似合わなかった。

それから7年、ゆきと外出のときは、いつも手帳も一緒。
その間に私の考え方も少しずつ変わっていった。

未来のある子だからこそ、手助けが必要なのだ。

助けてもらいながら、少しずつ社会にでていこうね・・・

写真のゆきはまだ赤ちゃんのまま。
その後ろに、今にも泣きそうな私もいる。
よし!この手帳を持って、どんどんおでかけしようね、ゆき。

98.おんぶ

昨日、おにいちゃんの保護者会で放課後、学校に行った。
帰りにゆきの担任の先生と偶然、会い、廊下で立ち話。

先生 「今日、みんなで近くの文化センターに図工展を観に行ったんですよ。」
私 「あそこまで、ゆき、全部歩けましたか?」
先生 「寒かったし、途中で、こちらから『おんぶしようか?』と言いました。行きは、T先生(若い男の先生)に。帰りは私がおんぶしました。」
私 「いつもすみません!」
先生 「無理してもいけないしね。
それにしても、ゆきちゃん、重たくなりましたね。」
私 「・・・(じーん。。)」

先生は、この2年間、遠足でも生活科の授業で近くに公園やスーパーに行くときも、「無理は禁物」と半分くらい歩いたあとは、おんぶしてくださっているようだ。
私より、ずっとずっとゆきをおんぶしてくれている先生。

「重くなりましたね。」・・・の言葉に、
この2年間の先生とゆきの関係が表れているような気がした。

そしてなにより、「重くなりましたね。」と言ったときの先生の顔が、
まるで自分の子どものことを話すお母さんのような表情だった。
先生に少し嫉妬した自分がいた。

先生の背中は、とてもとても温かかったよね、ゆき。

99.10年後の私へ

お元気ですか?
おにいちゃんは、22歳。
ゆきは、18歳になっているのですね。
おにいちゃんは、もう自分の進みたい道は見つかりましたか?
ゆきは、きっと生意気なわがままな女の子になっているかしら?(笑)
ゆきの体調はどうですか?
心配です。
不整脈は、改善されたかしら?
薬も自分で管理して、きちんと飲めているといいのだけど。

あなたは、何をしているのかしら?
きっと今まで子ども中心だったから、何をしたらいいのか、したいのか、わからなくて、いらだったり、焦ったりしてはいませんか?
大丈夫!
あなたはあなたらしく、生きる道をもう進んでいるはずですよ。
今までの感謝を忘れずに、ゆっくり歩いていってくださいね。
応援しています。
最後になりましたが、パパさんとも仲良くね♪

10年後のあなたも前を向いて歩いていますように・・・

100.かさかさな心

今年の冬は寒すぎだ。
冬は、人を敏感にさせる。
吐く息が白い、ほっぺが冷たい、なぜが猫背になって歩いている(笑)などなど・・・
適温では、感じないなにかが冬にはあるようだ。

でもね、気がついたら、かさかさになっていたんだよね、心が。

毎日、毎日、同じことの繰り返し。

ゆきが「のどが痛い」と言えば、薬を飲ませ、
「心臓がドキドキするかも~」と言えば、聴診器で心拍を計り、
そんなことの繰り返しに、ほんの少しだけ、疲れていたのかもしれない。

そんなある日、友人に赤ちゃんが生まれた。
その友人にも心臓病のお子さんがいる。
お兄ちゃんになったМくんと赤ちゃんに会いにいった。
新しい命とかわいいМくん・・・
見つめているだけで、涙がでそうなくらい、愛おしく感じた。

かさかさだった心にそーと薬をぬってもらったような、
両手で包んで温めてもらったような・・・気がついたら、心がぽかぽかになっていた。

ありがとう。

また頑張れそうだよ。

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