ママのおまじない(no.31〜no.35)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

31.最高の出会い

ゆきは、今、絵本作りにはまっている。
画用紙をただテープで束ねただけのものに、ひたすら絵を描いている。

そして昨日、お世話になっている「そらとぶペンギン」が、出展されている 「福祉まつり」に家族ででかけた。
そこに「そらとぶペンギン」の本の絵を描かれた、Nさんがいらしていた.。
それをゆきに伝えると、「うそぉ~!」と大興奮。
まるで、ずっと憧れていたアイドルにでも会ったような、尊敬と憧れと入り混じった、はじめてみるゆきの顔。
絵本を見ながら、「これはどうやって描いたの?」「これは薄くぬるの?」など質問していた。
Nさんも優しく、ゆきの目線で答えてくださっていた。

帰りの電車の中、「今日は最高!いいなって感じの日!」と言っていたゆき。
以前にも増して、夢中で絵本作りに精を出している。
色鉛筆で丁寧にぬって、1ページに数時間もかかっている。
Nさんとの出会いで、ゆきの中のなにかが変わったみたい。
本当にうれしい出会いだった。

でも・・・本物の絵本と自分の絵を比べて、「ママ~どっちが上手?」と聞くのはやめてよ。。。(笑)

32.秋の公園

先日、とても気持ちのよいお天気の日、ゆきの生活科の授業で市内の大きな公園に行った。
通常、学校から歩いて公園に行くのだが、片道、1時間以上の道のりは無理だろうと、担任の先生と相談して、公園まで私が自転車で送っていくことにした。

幼稚園のころから遠足に付き添ったり、現地まで送っていったり、いろんな形で行事に参加できるようにしてきた。
今回も当たり前のように、送っていった。
でも自転車のうしろに乗っているゆきは、不安顔。
「みんなどこ、歩いているかな?」
「本当に今日が行く日なのかな?」と言い始めた。

本当は、みんなと行きたいに決まっている。
そんな気持ちをひしひし感じながら、公園までの長い坂道を「イッチ、ニ、イッチ、ニ」と自転車をこいだ。
私もふと思った。
「健康な子のお母さんは、みんな何しているのかな?」って。
「仕事?」「友達とお茶?」「スポーツクラブ?」・・・
そんなくだらないことを考えながら、公園に到着。
公園は、すっかり秋の様子。
落ち葉、どんぐり、まつぼっくり。。。まるで別世界のよう。
ゆきを送ってこなかったら、味わえなかった秋。
他のお母さんは知らない私だけが感じた秋だった。

33.病気の子は・・・

今朝の新聞に「兄妹と一緒の保育園に」という記事が載っていた。
生まれれつき 気道がふさがりやすい病気で、手術を受け、痰や唾液の吸引が欠かせない4歳の女の子がいる。
1時間に1回の吸引が必要なほかは、健常児とほとんど同じようにできる。
でも「吸引」が医療行為にあたるため、基本的には医師や看護師、家族にしか認められていない。
その市の保育園には、看護師がいるのだが、特定の子のケアのためにいるのではないとの理由で、保育園に入れないでいるという記事。

読んでいて、ゆきの入園の時のことを思い出した。
はじめ、公立の幼稚園に申しこんだが、「突然、誰もいない部屋で倒れていたら困る。」「お母さん、焦らなくてもいいのでは。」「家でのんびりしていたら。」 いろんな言葉を使われ、体よく断られた。
その頃のゆきは、同じ年頃の子を求め、刺激を求めていた。
そんな我が子に集団保育の場を与えたかった。

いったい、病気を持った子は、どこに行けばいいの?
家でおとなしくしていなければ、いけないの?
健康な子と同じ場で大きくなることは、できないの?
悲しかった。
でも悲しんでいるひまはなかった。
次の幼稚園にあたる日々だった。
その記事のお母さんもそんな気持ちなのだろう。
病気を持った子は、ゆきだけではないはず。
どうかそんな子ども達が笑顔で過ごせる場所を与えてください。
お願いです。。。

34.抱きしめられる

ゆきの担任の先生は、本当によく子ども達を抱きしめてくれる。

2学期の初日もひとりひとりを抱きしめて、「元気だった?」と声をかけてくれたらしい。
クラスの少し乱暴な男の子には、「お友達を作るには、そうじゃないよね。」と抱きしめていた。
先日の生活科の授業で、公園に行った時も、みんなを待つ不安なゆきを、まず抱きしめて、「待たせてごめんね!一緒に行こうね。」と話してくれた。

抱きしめる、抱きしめられる・・・なんて心地よいことだろう。
そう言えば、最近、おにいちゃんを抱きしめていないな。
もう5年生だもんね~
でも大人になったって、たくさんの悲しいことや不安なこと、さびしいことがある。
そんな時、抱きしめてもらえたら、力も元気もでる。
ゆきの先生を見ていて、私も両手を広げて、抱きしめてもらいたいな~
ひそかに思うあやしい母親なのだ。(笑)

35.赤いほっぺ

朝、夕、だいぶ冷え込むようになってきた。
心臓病児にとって暑い夏もつらかったが、これからの寒い冬もかなりつらそうだ。
寒い日は、ゆきのほっぺは赤くなる。
チアノーゼでくちびるは黒っぽく、ほっぺは真っ赤。
病気のことを知らない人には、とても不思議に映るらしい。

先日、おにいちゃんが泣いて帰ってきた。
理由は、「クラスの子に『おまえの妹、真っ赤なほっぺだ~!!』とからかわれて、さらに まわりにいた子に『そんな言い方、ひどい~!』と同情されて悲しかった」と。
でもそのあとでおにいちゃんは、「ゆきのことで泣くのは、イヤだ」と言った。
私はあらためて、何も言わなかった。
おにいちゃんは十分、病気でほっぺが赤いことはわかっているはず。

ほっぺが赤いのは、毛細血管が少しでも循環をよくしようと、発達して広がるらしい。
だから赤くなる。。。
自然と身体が生きるために、働いているのだ。
私は、赤いほっぺが愛しくてたまらない。
手術の痕もチアノーゼのくちびるも赤いほっぺも、ぜんぶ、たからもの。
誰がなんと言おうと、大切な、ゆきの生きている証拠だ。



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