ママのおまじない(no.1〜no.5)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。
『そらとぶペンギン』も今はなく、この文章を独り占めするには、あまりにも もったいないので、ご本人の承諾を得てnoteにします。

1.おまじないの言葉

運動会の練習が始まった頃、
ゆきが「ママはおまじないの言葉ってある?」と聞いてきました。
私は「おまじないっていうか、好きな言葉ならあるよ。『だいじょうぶ、だいじょうぶ』 これがママが元気になる言葉だよ。」
「ゆきは、なあに?」と聞くと、
「『きっとできるよ』がおまじないの言葉なんだ、体育のときに言うんだ」と。

きっと運動会の練習で、行進、ダンス、かけっこなどすべてのことでお友達との違いや体力のなさを感じているのでしょう。
ゆきはどんな気持ちでこの言葉を唱えているのでしょう。
そう思うと、せつなくもなり、たくましくも思い、複雑でした。
でも、彼女なりに自分の中で折り合いをつけているのだと思いました。

そうだよね、 おまじないの言葉は、魔法の言葉なんだよね。
きっとできるよ!ゆき。だいじょうぶ、だいじょうぶ!

2.キモイ

「Hくんに『ゆきちゃんのくちびるの色、青くてキモイ』と言われた」と言うゆき。
親は見慣れたチアノーゼのくちびる・・・うーん、とうとうきたか!
いずれ、こういうことに向き合っていく時がくるとは思っていたが。
親として頭ではそう思っていても、心の中は、何とも言えないせつなさと腹立たしさでいっぱいになった。
ゆき自身は先生に言い、注意してもらって謝ってくれたからと、 すでに落ち着いている様子。

別にHくんを責めるつもりは全くない。
でも私はダメだ・・・「キモイ」という言葉が心の中で繰り返し回っている。
そんな時、養護の先生とお話しする機会があった。
そのことを話しながらも、涙がこぼれてくる。
先生は「教師の立場で言うと、Hくんの気持ちも理解しようとします。
『みんなと違う色だからびっくりしたよね。』
『先生もはじめは驚いたよ』など でもそのあと、
『そう言われたゆきちゃんはどう思うかな?』と話すと思います。
でもお母さんは違うよね。
自分のことも責めてしまいますよね。」とおっしゃった。

その話しを聞いて、わかったことがあった。
私は、ゆきになにかあると自分を責めていたこと。
そして、そう言った相手の気持ちも少しは考えてみようとも思った。
ただ言われたことを悲しむだけでなく、それからどうしたらいいのか、 どうしてそう言ったのかをゆきと考えていこう。

「キモイ」のうらには、いろいろな感じ方、驚きがあったからなのだ。
でも、「キモイ」という表現が、 このたった一言が、人を傷つけるということも忘れてはいけない。
言葉は、人を優しい気持ちにさせるものでなくてはいけないはずだ。

3.おにいちゃん

ゆきには、4才上に兄がいる。
ゆきとは、まるっきりタイプが違う、ちょっぴり気が弱いが優しい男の子。 小さい頃からだっこが大好きで、甘えんぼうのおにいちゃん。
おにいちゃんが年少さんのとき、ゆきが生まれた。
それからが、おにいちゃんの試練の始まりだった。

まだまだパパ、ママに甘えたい年頃なのにね。。。
ゆきの入院、手術のたびにおばあちゃんとお留守番。
やっと帰ってきても、心待ちしていたママはゆきにかかりっきり。
それでも文句も言わず、ママやゆきにもやさしくしてくれたおにいちゃん。 入院するとき、ゆきに折り紙でお守りを作ってくれたよね。
本当は、今にもさびしくて泣きたいはずなのにね。

ママは、心配していたんだ。 おにいちゃんの心の中に、いろんなものがたまって、 いつか爆発するんじゃないかなって。

だから今、「早く、宿題しなさい!」「おつかいに行ってきて!」などの ママの言いつけを、 「ムリ!!!」の一言で反抗するおにいちゃんがうれしいんだ。
気がついたら、もう5年生。
これからは、いっぱいいっぱい反抗しておいで。
少しずつ、爆発してもいいよ。 ドーンとかまえて待ってるよ。

でもお手やわらかにね、おにいちゃん!

4.プール

いよいよ先月から学校のプールが始まった。
う~ん・・・ゆきは入っていいものか?主治医に相談。
「はいっていいよ!でも長い時間、もぐっていてはダメだよ。」とのこと。 私は、心の中で「やった~!!!」と正直うれしかった。
 心配はもちろんあるけど、水の気持ちよさやプールのあとのちょっとけだるい感じ ・・・どんなささやかなことも味わってもらいたかった。
学校側からは、私がプールサイドで付き添いすることで許可がでた。

今日で4回目。
私が付き添いすることを、一年生全員に説明もしてくださったらしい。 「ゆきちゃんママだ」「心配だから来ているんでしょ。」など口々に話しかけてくれる。
小さい身体のゆき。
プールもほとんどはいったことがない。
恐がっているゆきに先生方が必ず、手をつないでくださる。
近くのお友達が「大丈夫だよ」と言ってくれる。
ゆきは、なんていい顔をしているのだろう。
ニコニコしながら水の中ではしゃいでいる。
その笑顔は、たくさんの方の協力や理解があるからだ。 
担任の先生、補助の先生、一年生のみんな、主治医の先生・・・ いつもありがとうございます。。。

5.赤ちゃんの頃

今日、ひとりでバスに乗っていた。
とても暑い日で、バスの中もとても混んでいた。
そこに3歳くらいの子の手をつなぎ、背中には赤ちゃんをおんぶしたお母さんが 乗っていた。
背中の赤ちゃんは、ニコニコしていて「ウーウー」と声もあげていた。
まわりの人は、その赤ちゃん見て、ほんわか温かな雰囲気になった。

私には、ふたりの子どもがいるのに、こういう感じにふたりの子を連れて外出したことなかったな~と思った。
ゆきの赤ちゃんの頃は、風邪がうつると恐かったから人混みにはでなかったし、 おにいちゃんとのおでかけは、必ずゆきはパパやおばあちゃんとお留守番だったから ふたりきりだった。
私も赤ちゃんのゆきをおんぶして、まだちょこちょこ危なっかしいおにいちゃんの手を つないでおでかけしたいな・・・

子どもが小さい頃は、お母さんにとって一番、忙しくて大変な時期だろうけど、楽しいときでもあるんだろうな・・・しみじみ~。。。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?