ママのおまじない(no.41〜no.45)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

41.モマレテイマス

先日、学校の個人面談があった。
ゆきの先生とは、いつもお会いしているので お互い、「なんだかあらためて面談と言ってもね~」と笑いながら始まった。

先生、「ゆきちゃん、今、もまれています。新しくなった班は、活発な男の子が多く、やることがゆっくりだと 『ゆきちゃん、遅いぞ!』と言われたり、 ちょっとしたことで、言い争いになったりして・・・」

「そう言えば、今の班、イヤだなとは言っていましたけど。」
先生 「優しい子と一緒もいいのですが、こういう状況もこれから必要かと 思い、ゆきちゃんにはもうしばらく、もまれてもらいます。切磋琢磨して成長していきますよ。」と。
「ぜひ、よろしくお願いします!」

最近、一緒に登下校しているお友達に荷物を持ってもらっているらしいゆき。
みんなも一年生。
それぞれ荷物も持っているのに・・・
そのお友達は、どの子も優しい子ばかり。
みんなも「ゆきちゃんは病気だからいいの。」と。
ゆきもあたりまえな顔をして持ってもらっている。
身体がつらい時なら、仕方がないだろう。
けど、元気な時は、自分のことはきちんとできるようになってほしい。
それに人にやってもらって、あたりまえの顔をしているゆきがイヤだった。
一応、ゆきには注意したが、わかったかどうか・・・

そんな時だったので、先生からの「モマレテイマス・・・」はうれしかった。
自分に合わせてくれる子ばかりではない。
いろんな子がいるということをわかってほしい。

ゆき、どうかどうか、たくさん、モマレテクダサイ!

42.コントロール

ゆきが赤ちゃんのころ、私は、ゆきの寝顔を見ては泣き、ミルクを飲む姿を見れば泣く・・・というほどいつも泣いていた。
外を歩いて、健康そうな子どもたちを見るだけで、「どうしてゆきは・・・」
悲しくなり、やり場のない怒りも湧いてきた。
真っ暗な長いトンネルに入り込んだようだった。

そんな時、東京都主催の心臓病の講演会にでかけた。
専門医の先生の講演がおわったあとの質問の時間に、私は、「自分の気持ちをどうコントロールしていいかわからないのです。」と話した。
先生は、とても困ってしまったらしく、
「これは私より先輩お母さんの方が、答えをお持ちでしょう。」とおっしゃった。
確かに病気のことや、病児本人のこころのことならまだしも、母親のこころのこと。
答るのが、難しいのも無理ないことだ。

その当時、小学生の男の子のお母さんが、私の近くに来て、「時間が解決してくれますよ。あまり先のことを考えず、今日一日を大切にしてください。」と言ってくれた。
その時は、あまりピンとこなかったが、今、少しだけわかる気もしてきた。
けど、相変わらず、不安な思いや迷う気持ち、健康な子への嫉妬、などなど
自分の気持ちのコントロールする方法がわからないままである。

そんなお母さんは、私だけではないはず。
今もどこかで、ひとり泣いているお母さんがいるんだろうな・・・

43.様子をみましょう

この言葉、いろんな場面で聞くことが多い。
とくにゆきの病院では、今まで何度も聞いてきた。

先週、外来で、先日行った24時間心電図の結果を聞いて来た。
案の定、日中の学校に行っている間に不整脈がでていた。
ただ回数は多くはないので、「様子をみましょう」ということになった。

正直、ホッとした。
今のままでしばらく生活できるんだ!とうれしくもなった。

でもその時々によって、私のこころの中の反応は違う。
ある時は、「放っておいていいんですか!手遅れになりませんか?」
と先生に詰め寄りたくなる。
そして、不安や疑問に思ったことは、先生に質問しなくっちゃと焦ったりもする。
またある時は、「よかった~そんなにひどくないんだ」と胸をなで下ろす。
まあ、ゆきの状態によって私の反応も違ってくるとは、思うのだが・・・

「様子をみましょう」とは、まるで宿題を先延ばしにしたような、ちょっと複雑な言葉。
様子をみたあとには、良いことが待っていればいいんだけどな~。

44.お誕生日会

先週、学校から帰ったゆきが「今日、Nちゃんのお誕生日会によばれたから」と言い出した。
「え~、ママは何も聞いていないよ。プレゼントも用意していないし・・・」と
言ったところで、ピンポーンとインターホンが鳴った。
Nちゃんが、迎えに来てくれた。
ゆきは、休憩もせずにでていった。

私は、大急ぎでプレゼントを買いに自転車を走らせた。
「今日は、5時間授業だったから、疲れているだろうな・・・」
「ほんとにゆきが行って、よかったのかな?」
「ゆきもお友だちのお誕生会に、よばれるようになったんだね~」
と思いを巡らせながら、ペダルをこいだ。

小さなキャラクターの付いたクリスマスツリーのプレゼントとジュースを買って、Nちゃんのお宅に行った。
Nちゃんのお母さんは、「ゆきちゃんのママもどうぞ」と言ってくださり親子でおじゃまさせてもらった。
同じクラスのお友だちとお母さんも来ていて、お茶を飲みながら、ケーキを食べ、大げさだけど、「こういう世界もあったんだ~」というほど 私もゆき以上に楽しませてもらった。

ゆきは放課後、あまりお友達をうちによぶこともないし、お友達のお宅に行くこともない。
ただひたすら、学校の疲れをとるかのように、好きなことをして過ごす。
だから、私もクラスのお母さん方となかなか話す機会もなかった。
ゆきも私も満ち足りた気持ちでいっぱいだった。

しまった!あっ、そう言えば、おにいちゃん、どうしただろう?
何も言ってこなかった。。。(汗)
友だちとテレビゲームをして過ごしていたらしい。。。
「おやつもないし、お腹すいたよ~」と叫んでいた。(笑)
ごめんね!おにいちゃんのこと、忘れていた・・反省!

45.不安

今日は、とてもいいお天気なのに、真っ青なきれいな空なのに、心は悲しみで不安いっぱいになっている。
外では、子どもたちの元気な声が聞こえる。
街は、クリスマス、お正月で華やいだ雰囲気になっている。
でも私は、いくら打ち消そうとしても、次から次へと溢れ出る思いで苦しくなる。

病気の子を育てていると、時折、迫るこの不安な気持ち。
「これからどうなるの?」
「来年は、どうなっているの?」
「5年後は?」「10年後は?」
「いつまでいっしょにいられるの?」
涙があふれてくる。

私は、これから先のゆきのありのままをきちんと見つめることはできるの?
私だって逃げ出したい。
そんな強いママじゃない。

でもそんな時、ゆきの寝顔を見ていたら、
「だいじょうぶだよ!できるよ。。。ゆきのママは、あなたひとりだよ・・・」と
まるでゆきが私に語りかけるように、その言葉が浮かんだ。
ありがとう。。。
私は、これからもゆきといっしょに、この不安な気持ちも育てていこうと思う。

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