ママのおまじない(no.71〜no.75)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

71.ゴールデンウィーク

このゴールデンウィークは、我が家にしては充実したものだった。
いつもなんとなく、のんびりうちで過ごすことが多かったが、今回は、前半に池袋でゆきの好きな「ピングー」の展覧会があるので、家族で観にいった。
めったに人込みに出かけないので、交差点の信号待ちのたくさんの人を見て、ゆきはびっくりしたようで、「パレードでも始めるみたい~」と言っていた。(笑)

また別の日には、サマーキャンプで知り合ったご家族と、遠足でも行った、小金井公園へでかけた。
とても気持ちのよいお天気で、ゆきも芝生の上を走りまわっていた。
そのご家族の下のお子さんは、冬まで入院していた。
やわらかな陽射しが「元気になって、よかったね」と言っているように思えた。
本当に、うれしい一日だった。

そして、昨日は夫の友人のご家族が遊びに来てくれた。
中2の男の子と小5女の子。 おにいちゃん同士は、ゲーム三昧。
おねえちゃんは、ずっとゆきのお絵かきに付き合ってくれていた。
この連休は、楽しいこと、うれしいことがたくさんあってよかったね。
明日から、また学校だ。
運動会の練習も始めるし、暑い日もでてくるだろう。
ゆっくり、ひとつひとつ楽しんでいこうね。

72.日記

私のたからもの。
それは、日記である。
と言っても、ゆきが生まれたその日からつけている日記。
ゆきが生まれてすぐに、ICUにはいってしまい、病室でただ泣いてばかりいる私に 担当の助産婦さんが「これ、つけたら?」と差し出してくれたのが、生後半年まで記入できる、育児日記だった。
どこかのミルクメーカーでサービスに配っている簡単なものだったが、まず目に飛び込んできたのが、毎日の日付けの横に書くようになっていた「生後○日」だった。

一緒に過ごしていないのに、何を書けばいいの?
この子は、この日記が書き終わる半年後まで、生きていられるの?
でも・・・だからこそ、なにかを残したい!
この子の生きた証を記しておかなければ!と書き始めた。
生後○日と書いていると、まるで積み木を丁寧に積み重ねているような、うれしいけど、いつ崩れるかわからない不安でいっぱいだった。

生後3日 呼吸器が外れた。顔がすっきりして楽そう。
生後40日 大泣きしたあとで、ミルクが口から飲めず、鼻からチューブで入れた。
生後96日 明日からいよいよおうちです。この日を待っていたはずなのに、なぜか、ママはとても不安です。
生後2813日 ゆきとふたりで外来。先生に「不整脈がでたら検査するの~?」 と質問していた。先生も「さすが2年生。たくましいな・・・」と言っていた。

日記は、12冊目に入り、いまだに、「生後○日」と記している。
ゆきにとって、一日、一日が貴重で大切でありがたいのである。
これからも毎日を笑ってすごしていきたい。

それにしても、いつも3日坊主の私なのに・・・えらいな~!

73.やきもち?

昨日、学校で集団下校があった。
緊急時に備えて、同じ地区の子ども達が、まとまって下校する練習なのだ。
私は、そのお手伝いをしてきた。

ゆきは、同じクラスのKちゃんとずっと手をつないでいる。
そのうしろで、Kちゃんと大の仲よしのNちゃんがつまらなそうな顔をしていた。
うちに着く頃、Nちゃんが私に、
「ゆきちゃんのおかあさん・・・Kちゃん、ゆきちゃんが、心臓病だからって、ゆきちゃんにやさしすぎるよ」とさびしそうに言うのだ。

私は、「Nちゃん、なんだかイヤな気持ちしちゃったよね。でもね、ゆきは、歩くのが 遅いから手をつないでもらうと助かるんだよ。」と言ったものの、Nちゃんの気持ちが、とてもとてもよくわかった。

Nちゃんもいつもゆきにやさしくしてくれる。
でも、自分が仲良くしている子が、ゆきにやさしくしていると、おもしろくないのだ。
そう言えば、おにいちゃんもそうだったな。
おにいちゃんは、ゆきをとてもかわいがるのに、私が抱っこしていると、いじけて、ふてくされていた。
まだ7才だもんね。
いろんな思いが心の中をめぐるよね。

当のゆきは、何も関係ないという顔で「集団下校、楽しかった~!」だって。
いろいろあるな~2年生・・・

74.休憩

今週末、運動会がある。
毎日、2時間は体育で運動会の練習がある。
先日、保健室から電話。
「練習のあと、吐き続けているので、迎えにきてください。」

ゆきは、動きすぎると心臓がついていかず、吐き気にくることが多い。
やっぱり~!
保健室のベットで先生に背中をさすってもらっている。
うちに戻ってからもしばらく吐いていた。

その日の夜、お風呂でゆきと話した。
「みんなと一緒に練習をがんばってしまうと、今日みたいに吐いちゃうよね」と私。
「うん、でもみんなとやりたいもん」とゆき。
しばらく、どうしたらいいか話し合った。
「わかった!もうダメだな~と思ったら、先生に『休んでいいですか?』って言うよ。」と言い出した。
それからは、自分でもかなり気をつけているようで、途中でお休みしながら、元気に練習にも参加できている。

途中の少しの休憩が、最後まで楽しくやれることにつながるのだ。
親は、ずっと一緒にはいられない。
自分の身体が、今、どういう状態か、自分がどうしたいか、どうしたら参加できるか・・・そしてそれをまわりの人に伝える。
・・・それができたら、ゆき、もう怖いものないよ。

休憩、休憩・・・そうしたらまた動けるよ。

75.無理させていない?

う~ん、いつも心の中で唱えている。
「無理させちゃっているかな?」 これは、もちろんゆきに対してだ。

小学校に入学する前、市の教育委員会に就学の相談に行った。
そこの先生は、とても親身に話しを聞いてくれた。
でも、私が普通学級に入れたいと言うと、
「ゆきちゃんに、無理させることにならないかな?」とおっしゃった。

それから、ずっと、この言葉が心にひっかかっている。

みんなと同じようにやることが、無理と言ったら無理なのだろう。
みんなと一緒にランドセルを背負って、自分の足で登校することも、
運動会の練習も、給食当番も、掃除の時間も、ぜんぶぜんぶ・・・
無理させているのではないか?
頑張りすぎているのではないか?

答えはでない。
けど、ゆきが今日も笑っている。
やっぱり、これでいいのかもしれない。
いよいよ明日は運動会だ。

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