ママもおまじない(no.26〜no.30)

この「ママのおまじない」は、心臓病の子どものための保育教室『そらとぶペンギン』に通っていた生徒が小学生となり、そのお母さんが2004年から2007年まで、『そらとぶペンギン』のサイトに掲載していたものです。

26.朝の支度

心臓病児は、朝が弱いとよく聞く。
ゆきも、かなり朝は苦手。

だから学校のある日は、大変である。
8時に家を出る・・・逆算しても6時半には起こさなければゆきのペースでは遅刻してしまう。

6時30分、やさしく(笑)「おはよう~♪」と声をかける。
ゆき「・・・」
6時40分、雨戸を開け、朝のまぶしい光を部屋に入れる。
ゆき「・・・」
6時45分、「今日は何を着ていく~?」とまたやさしく私が言う。(笑)
ゆき「・・・あれ!!!あのピンクの服じゃなきゃ行かない!」
私「洗濯しちゃったから、ダメよ」
ゆき「なんだか頭、痛い気がする。学校休む~!」
私「じゃあ、まだ寝てたら?」
ゆき「それじゃあ、遅刻するじゃないか~」
と、このやりとりが10分続く。

7時、やっと食卓へ。
小さなおにぎりと、ヨーグルトを少しを半分寝ながら食べる。
(その間に夫とおにいちゃんは、黙々と自分のことをやっている)
7時40分、薬を飲む。
数種類、しかもお湯に溶くものとそのままのものとがある。
一気に流し込み、締めは口がまずいので甘いお菓子を一口。
7時50分、トイレ、歯磨き。
(ここまできたら、もう大丈夫・・・)ホッ。
7時57分、帽子をかぶり、準備完了!

ゆきはもちろん、私もがんばっているな~としみじみ。
今日も、楽しく、元気に過ごせますように・・・

27.聞くこと、聴くこと

昨日、雨の強い中、ゆきのクラスのお友達(男の子)が遊びに来てくれた。
いっしょにビデオを見たり、ゲームをしたりして楽しく過ごしていた。
帰り、雨も降っていたのでその男の子を家まで送って行った。
その子と雨の中、歩きながら、話しをした。
「ゆきちゃんは、どうしてほっぺが赤いの?」
「ゆきちゃんのお兄ちゃんも心臓病なの?」
「ゆきちゃんは、どうして病気になったの?」と次から次への質問に思わず笑ってしまった。
「おにいちゃんは、心臓は悪くないよ。
どうして病気になったかは、わからないんだ。
おばちゃん(私)が目が悪いのと同じで、理由はよくわからないの。
ほっぺは、たぶん心臓が悪いかな~」と答えたところで、その子のおうちに到着。
きっと、ずっと不思議に思っていたのだろう。
でも、私はとても心地よい気持ちになった。

そして、同じ日の昨日のこと。
ちょうど私の友人も遊びに来てくれていた。
その友人は、私の話しを目を見て、こちらが照れてしまうくらい、 真正面から、本当に心を傾けて、聴いてくれる。
そうすると不思議と、私も素直にいろんなことを話したくなる。

「聞く」と「聴く」どちらも使い方は難しい。
今日のふたりは、どちらも100点!!!すごい!!!
ゆきのことを聞いてくれてありがとう。
私の話しを聴いてくれてありがとう。
おかげで心が豊かになったよ。

ありがとう。。。

28.写真撮影

ゆきは、今年7歳。
七五三の衣裳や写真館のダイレクトメールが、届くこの頃。
あまり寒くなって、チアノーゼが強くなる前に写真だけでもと思い、土曜日に写真館に行ってきた。

いまどき、競争も激しいようで、プラス1000円で洋装の写真も撮れるとのこと。
もちろん、「気分はアイドル」のゆきはドレス姿も撮ることになった(笑)
黄色の着物とピンクのドレス。(これもゆきが決めた)

お化粧をしてもらい、髪もアップにして、だんだんそれらしく仕上がってきた。
後ろで、夫がジーと見つめていた。
「三歳の時は、支度の時点で疲れていたよね。
でもあのうれしそうな顔は忘れられない」と言っていた。
確かにゆきの顔がパァーと明るくなって、その顔を見て泣けてきたのが昨日のことのようだ。

仕上がった。
やっぱり三歳の頃より、ずっと大人びて見えた。
こんなに大きくなったんだね、ゆき。
かわいいよ。
もっともっと大きくなってね。
でもゆっくりでいいからね。。。

横を見ると、また夫の目がうるんでいるように見えた。

29.アタリマエ

私は、よく子どもを叱るときに「そんなの当たり前でしょ!」と言う。
でもよく考えたら、当たり前ってなんだろう。
その人にとって、普通、当然なことなのだろう。
おにいちゃんとゆきを見ていて、そんなことを感じることが多くなった。

おにいちゃんは、運動が苦手だ。
友達をつくるのも得意ではないようだ。
私の中のフツウの男の子は、野球やサッカーを毎日して、外で友達と暗くなるまで元気に走りまわっている。
実際のおにいちゃんとは、全く違う。
私は、いらだっている自分に嫌気がさしていた。

ゆきは、生まれつき病気を持っていたせいか、あまり「当たり前」と考えることなく、これまで過ごしてきた。
「ゆきらしく」「楽しく」暮らしてくれればと願ってきた。

ふたりとも私が生んだ子なのに。。。
きょうだいなのに。。。
いつのまにか、健康なおにいちゃんに勘違いな思いを重ねていた。
おにいちゃんは、そんな私が母で苦しかったはずだ。
「アタリマエ」は人それぞれ、違うんだよね。
自分の当たり前を人に押し付けない。
そんな当たり前?なことに、今、気がついた。

アタリマエ、アタリマエ・・・苦しくなる呪文のようだ。

30.体育

先週、授業参観があった。
と言っても今どきは、働くお母さんも多いからか、3日間、どの授業を参観 してもいいということになっている。
私は「体育」を観たい!と前々から思っていた。
ゆきがどのくらいまで、参加しているのか?
楽しくやっているのか?
身体は、つらくないのか?
など知りたいことがたくさんあった。

体育館での体育。
動物のかっこうをして、ジャンプしたり進んだり。
イヌ、アザラシ、ウマ、ウサギ。。。
見ているだけで息切れしてきた。
ゆきは、ゆっくりながらも、ニコニコしながらやっていた。
次はマット運動。
マットも班ごとに運ぶ。
ゆきも歯を食いしばって運んでいた。
身体をゆりかごのようにして、マットの上でゴロゴロところがる。
ゴロゴロというより、ゴローンとそのままひっくり返っていた。(笑)

観ている私の方がドキドキしていた。
でも楽しそうなゆきの顔を見ることができてよかった。
本当に、100%の力をつかって学校生活を送っているんだね。
きっとこれから先、もっとハードなことが待っているだろう。
いつまでついていけるかわからないけど、イヤ、心臓のことを考えると ついていかない方がいい時もくるだろう。

その時は、きっとくやしいよね。
いじけたくなるよね。
でもゆきにはゆきにしかできないことがあるから・・・
だいじょうぶだよ。
これからも笑っていこうね!

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