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続・脳科学の未来(9)コネクトームを作る

電顕画像を見ると、ニューロンから伸びた突起や、シナプスの場所を簡単に探すことができます。しかし、実際はこんなに単純なものではないです。まず、これらの構造は、細胞そのものに較べてはるかに小さいです。

脊椎動物では、多数あるニューロンを例えば運動ニューロンという一括した名称で呼ぶことはできるが、それぞれのニューロンに名前を付けるというようなことはできません。また、そうしたニューロンが持つシナプスは個々に番号を付けることができるように特徴があるわけでもなく、見かけのよく似た構造が多数あるに過ぎません。一般に、1つのニューロンが持つシナプスの数は、1万個と見積もられています。とにかく、数がとんでもなく多いです。

ニューロンから伸びていく細かな構造(軸索、樹状突起)を丁寧にたどっていきます。ところが、電顕で扱えるのは、切片です。こうした構造は、切片上では切断されてしまっています。つまり、これも薄い切片を連続的にすべて集め、コンピュータを使って画像処理しないと、軸索のような長い突起を含め、ひとつの細胞の全体の形や接続状態を見ることができないのです。

こうした作業を完璧に行うのは熟練した技術家でも容易ではありません。脳の大きな部分をこうした方法で調べていくのは、切片数がとてつもなく多くなるので、こうした作業を間違いなく行うというのは、人間の手で実施するのは困難です。つまり機械化、自動化する必要がでてくるのです。

欧米のいつくかのグループで、このような方法が開発され、現在、実際に稼働しています。例えば、連続切片を自動的に集める装置(例, ATUM)、高速度で電顕写真を撮影する顕微鏡(例, Zeiss社MultiSEM)、画像を人工知能を使って処理し、ニューロンの構造やつながりを3D再構成していく方法です(例、Connectomics- Google Research)。

ATUMの解説 

http://microscopy.or.jp/archive/magazine/49_3/pdf/49-3-176.pdf

問題は、その画像処理の過程で、切片を失ったり、画像処理の過程で、画像上の細胞膜構造がどのニューロンに属するものかという同定(セグメンテーション Segmentation)を間違えると、ずれてしまい、「人違い」のようになってしまいます。万が一、ミスすると、とんでもない結果になってしまうのです。間違いが許されない正確さで行う必要があるのです。

ハーバード大学Lichtman研究室とConnectomics Google teamは、「H01」データセットを公開しています。H01は、1.4ペタバイトの容量を持つヒトの脳組織のサンプルです。このサンプルは、連続切片電子顕微鏡によってナノスケールの分解能で撮影され、自動的に再構築とアノテーションが行われ、ヒト大脳皮質の構造に関する情報を得るために分析が行われたものです。

このデータセットには、数万個の再構成されたニューロン、数百万個のニューロン断片、1億8300万個のシナプス、100個の細胞、その他多くの細胞内構造物など、およそ1立方ミリの画像データが含まれており、これらはすべてNeuroglancerブラウザインターフェースで簡単にアクセスすることが可能です。

(週1回のペースで更新しています)

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