サイコロにゆだねてみた旅。
パソコンの前に座って作業をする日々が続くと、その小さな画面の中に閉じこもっているような感覚になる。たとえパソコンを開く場所を変えたとしても、画面の中が変わらないのなら、見つめる世界はずっと同じ。わたしにとって見つめることは、居ることでもある。だから、この状況は小さな部屋に閉じこもっている感覚とよく似ている。急速に鬱々とした気持ちが膨らんでいく。
打開策を必要とし始めた頃、こんな企画商品があることを知った。
行き先が絞られていることも、行き先をサイコロが決めることも、近すぎず遠すぎない距離も、すべてがちょうど良い。さらに、お得な価格設定と来た。絶好の機会だと思ったわたしはすぐさまエントリーをして、サイコロを振った。
出た目は……
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出雲市!(スクショ撮っておけばよかった)
出発の朝。新大阪駅を9時に出発する新幹線のぞみに乗車し、岡山駅まで約45分。特急やくもに乗り換えて出雲市駅まで約3時間。電車の旅が始まる。
特急やくものテーブルには、珍しくドリンクホルダーがふたつあり、なんと「&bottle」のボトルとコップにぴったりなサイズ。思わず動画まで撮ってしまった。
カーブも多く割に揺れる特急やくも。1972年3月の運行開始から50年以上が経ち、2024年春以降は新型車両に置き換えとなる。ドリンクホルダーはふたつあるのか、ないのか、気になるところ。
車窓から見える景色とパソコン画面の間を行ったり来たりしながら、済ませておきたい仕事を終えたあたりで、出雲市駅に到着。
宿泊するホテルにチェックインをして、全国旅行支援クーポンを受け取る。荷物を預けたら、すぐさま一畑電車(通称:ばたでん)に乗るべく電鉄出雲市駅へ。「乗車証明書を発行するので下車してから運賃を支払ってください」という駅員さんのありがたいフォローのおかげでなんとか発車間際に滑り込み、オレンジ色のレトロでかわいい電車に揺られて目的地へ向かう。
川跡駅で乗り換えて、ついに出雲大社前駅に到着。
14時をまわり、お腹はぺこぺこ。旅の楽しみのひとつは、郷土料理を味わうこと。目星をつけていた出雲そばのお店は残念ながら臨時休業だったので、別の参道沿いのお店に入る。
出雲に来たことを実感しながら完食。お会計はスマホの電子クーポンアプリにチャージした「しまねっこペイ」。「しまねっこ」とは、島根県の観光マスコットキャラクター。全国各地で数多に存在するゆるキャラのなかでも、とびきりかわいいとわたしは思っている。でも、そのかわいさに油断してはいけない。「しまねっこペイ」は、決済時に大音量でしまねっこソングが鳴るので要注意だ。
いつもなら、これだけ食べればお腹いっぱいになるのだが、この日はなぜか物足りなかったので、参道沿いの別のお店でぬれおかきを購入。ここでも大音量でしまねっこソングが鳴る。元気でなにより。
お腹が満たされたところで、いよいよ旅の目的地、出雲大社へ。
拝殿と八足門でお参りをして、左回りで巡る。再び八足門に戻ってきたところで、にわか雨。朝に見た天気予報では雨のマークがついていなかったので、傘を持たずに来てしまった。御守所で雨が上がるのを待つ。30分ほどがたった頃、ひときわ眩しい空の反対側に、虹が架かっていた。
西の空から雲は消え、太陽が顔を出している。日没まであと1時間。稲佐の浜へゆっくりと向かう。
枝に付いた花の蜜を吸うメジロをヒトが微笑ましく見守るように、串に刺さったお菓子を食べるヒトをカミは微笑ましく見守るのだろうか。そんなことを考えながら、途中、地元のローカルスーパーに立ち寄りつつ、稲佐の浜に近づく。小学生たちが楽しそうに下校している。
ゆっくりと沈む夕陽が完全に姿を隠した頃、たくさんいた人々は、とうにいなくなっていた。淡い輝きの優しい空の下、波音だけが響く。
この砂浜から見える海のずっと向こうには、遥か遠い昔の祖先が眠っている。その先のずっと向こうには、遥か遠い先の未来が待っている。今は、過去と未来に託されている。
託された今に、わたしは居る。生きている。
その重さでしんどくなる日もあるけれど、この時はなんだか、ひょいっと軽くしてくれるような優しさに包まれた気がした。
次第にあたりは暗くなり、体も冷えてきた。来た道を帰る途中で、ふと空を見上げて驚いた。だって、見て、この雲の形!
すべて、成るように成る、ということ。
だから、きっと大丈夫。
振り出しに戻ろう。また新しいわたしで。
ここから先はおまけ。
おしまい。
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