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PTAを変えた会長が見つけた「PTAのあり方」とは

コロナを経て、やり方を変えたPTAも多いと聞きます。その一方で、従来どおりのやり方に戻ったPTAもあるでしょう。
およそ3年前に書いた「PTAがヘンだと思ったので変えてみた話」は、ありがたいことに、いまだに読んでいただいています。

今回はその続編です。PTAを変えてきた会長に取材しました。

お話してくれた人:A小学校PTA会長 Bさん
A小学校のPTA本部役員を2年、PTA会長を7年経験。
末子の小学校卒業とともに自身も今年度で会長職を卒業する。


子どもたちには大人の本気を見せたい

Bさん
今年度はA小学校の創立から◯周年の節目に当たるので、通常のPTA業務に加えて、周年行事の準備も進めてきました。
学区の自治会にも協力いただきましたが、大半をPTAで準備し、運営できたことを誇りに思っています。

周年行事のために役員を増員したり、ボランティアを募ったりすることも考えたのですが、結局応募がなかったので諦めて、普段どおりの人数で運営しました。

その分、役員さんたちにはいつもの年よりも会議や準備の負担が多かったと思います。けれども、7年のうちに少しずつ種をまいてきたので、みなさん気持ちよく手伝ってくれました。

今回の周年行事も「子どもたちへのメッセージ」が目的です。地域の大人たちが協力してこの学校を作り、支えてきました。地域の中で子どもたちを育ててもらっています。地域の皆さんと一緒に祝い、子どもたちの心に残る日にしたかったのです。

ーなるほど。目的が明確だから協力しやすいのですね。ところで、「少しずつ種をまいてきた」とは、どういうことでしょうか。

Bさん
周年行事の準備は数年かけて進めてきましたが、根本的にPTAを少しずつ「できる人が、できるときに、できることを」する組織に変えてきたんです。

ー具体的には?

Bさん
PTAの活動そのものを見直して不要な活動をやめてきましたし、役員選出の方法を変えてきました。

A小学校役員選出ルール
・専門部役員は1学年から3人選出
・本部役員は1学年から1人選出、任期は2年
・本部役員を1度やったら、その家庭の他の子どものときにはしなくていい
・小さいお子さんや介護の必要な人などがいる家庭は役員をしなくていい など

たとえば、かつてはクラスごとに専門部の役員を決めていたのですが、学年ごとに選出する方法に変えたんです。

A小学校は比較的規模が小さくて、子どもの人数が1学年40人前後なんですね。そうすると、たとえば42人いる学年は2クラス、39人の学年は1クラスになります。
これでクラスごとに3人の役員を選出するルールだと、1クラスの学年は6年間で18人が役員をやればいいんですが、2クラスの学年は36人、ほぼ全員がやらなくちゃいけないんですよ。

だから、クラスごとに役員を決めるのをやめて、前年度のうちに学年から3人ずつの役員を決めることにしました。そうすると、役員決めで揉めることが全くなくなりました

ー全く?!

Bさん
ええ。役員決めで時間を取られることがなくなったし、気持ちよく仕事をしてくれるようになって、むしろ以前より活発に活動していますよ。

ー一人一役のように役を増やして仕事を分散するPTAもありますが、A小学校は逆に役員数を減らしたんですね。

Bさん
そうですね。本部役員も同じです。本部が何をしているのかが保護者たちにはよくわからなかったし、一度本部役員になったら1年でやめる人と何年も続けている人と両極端です。こんなブラックっぽい組織じゃ、やってみようと思えるわけがありません。

そこで、役員の仕事を保護者たちに周知していくと同時に、任期を2年に決めました。そうすると6年間で1学年から3人だけ本部役員をすればいいと、最初から保護者たちにわかります。

任期を2年にしたのは、本部役員を半分ずつ交代させるためです。そうすると、初めて役員になった人も、1年経験のある人の意見を聞きながら動けます。2年目には1年目にできなかった課題をクリアしようとして動いてくれる。2年やり終えたら、2人目3人目の子どもがいても、もう本部役員はやらなくてよい、というルールも作りました。

ー仕事の内容と期間の予測ができるようになったから、余裕のあるときに気持ちよく引き受けて、積極的にPTAに参加できているというわけですか。

Bさん
そうです。一方で、世間には賛否両論あるベルマークの活動は続けています。ときどき来て気の合う人とおしゃべりをしながら手を動かしたい、とボランティアをしてくれる人がいるからです。そういう人がいなくなれば、やめるつもりです。

それともう一つ、新しい組織として「おやじの会」を作りました。PTAの一部ではありますが、完全独立の有志の集まりです。

ーおやじの会!どうやってメンバーを集めているのですか。

Bさん
メンバー募集のお知らせを配ったり、知り合いに声をかけて入ってもらったりですね。行事に来てもらったときに、一緒にやりませんか、と誘ったりもします。

ー行事にはどんなものがあるのでしょう。

Bさん
主に、おやじたちが子どもたちと本気で遊ぶイベントをしています。校庭で水鉄砲大会をしたり、スイカをたくさん集めてきてスイカ割りをしたり。会計は完全にPTAとは切り離していて、参加者が参加費を払うシステムです。
周年行事では「逃走中」をやりました。おやじたちと子どもたちの本気の鬼ごっこです。子どもたちがとても楽しそうに走り回っている様子を見られて、本当に嬉しかったですねえ。

その他、運動会や発表会などでの駐車場係や、夏休み中に行う学校清掃でも、おやじの会のメンバーに声をかけて動いてもらっています。
PTAにおやじたちが参加したことで、お母さんたちの負担が減りました。おやじたちは、会社以外の知り合いが地域にできました。子どもたちはおやじたちと本気の鬼ごっこや水鉄砲遊びで、楽しい時間を過ごしています。

ー三方得ですね!

Bさん
おやじの会には今、20人以上が登録していますが、仕事が忙しくてなかなか出られないという人もいます。こちらも常に全員が出なければいけないわけではなく、出られるときに出てもらうスタイルなんです。

ーおやじの会を作っている学校は、他にもありますか。

Bさん
市内に数校あります。
子どもたちには、大人が不満いっぱいでやっているPTAなんて見せたくない。大人の本気、大人が楽しんで参加している姿を見せたいんですよ。

やることとやらないこと

ー「できる人が、できるときに、できることを」というのが重要なキーワードだとわかりました。それでも、通常の業務に加えて周年行事をするのはとても忙しかったと思います。何か工夫があったのでしょうか。

Bさん
時間と人は限られているので、自分たちでやることとやらないこととを分けました。周年の節目として地域のためにも広報誌を作りたかったのですが、自分たちでやるとどうしても時間が足りません。そこで、広報誌作成は外注しました。

ーなるほど。外注することに反対意見はありませんでしたか。

Bさん
これまでも、旗当番に地域の人に入ってもらったことがあります。自分たちだけではできないことがあれば外部の人の手を借りよう、という空気はできていましたのでスムーズでした。
広報誌を外注して時間的な余裕ができた分、行事の準備に集中できました。完成した広報誌は、地域の方にも来賓の方にも好評です。外注して正解だったと思っています。

周年行事の当日は、校庭にテントを並べて保護者たちがフランクフルトやポップコーンなどの食べ物を用意しました。おやじの会も焼きそば担当で参加して、400食を作りきりました。
保護者たちだけではなく、キッチンカーや射的などの業者にも協力してもらいましたし、アトラクションに音楽隊やはしご乗りなどの団体を呼んだりもしています。これも外注です。

ーたしかに!保護者たちですべてやる必要はないんですね。

Bさん
この7年でPTAの見える化とスリム化を進めてきましたからね。

ーでは、本当に必要なPTA活動とは、何だと思いますか。

Bさん
子どもたちの安全を守ること、子どもたちの学習環境を整えること、そして子どもたちを笑顔にすること、です。結局、自分が子どもの頃にやってもらって嬉しかったことを、今、やっている気がします。おやじと遊んで楽しかった、大人の姿をカッコイイと思った。今の子どもたちにもそんな体験をさせてやりたいんですよ。

PTAを変えるには

ーBさんの改革以前にも、A小学校のPTAを変えてきた人たちがいると聞いています。

Bさん
そうですね。今から20年くらい前に、Cさんという会長を中心にPTAが変わりました。このときには「困ったときに見ればわかるマニュアル」を整えています。
この通りにやりなさいというのではなく、どういうふうにやってもいい、だけどもし困ったらここにやり方を書いているからね、というマニュアルです。
時代の変化に合わせて少しずつマニュアルも変えてきていますが、基となっているのはこのときのものです。

ーそうだったのですね。では、BさんやCさんの改革を振り返って、PTAを変えるためには何が必要だと思いますか。

Bさん
私のときもCさんのときも、PTAを変えることができたのは一緒に変えてくれる人がいたからです。何かを変えるのにはエネルギーが要ります。何もしないで前年と同じことをするほうがずっと楽ですよね。
けれども、変えたほうがいいと思い、一緒に動いてくれる仲間がいた。そうでなければ、PTAを変えることはできませんでした。

今も、一緒に子どもたちと本気で遊んでくれるおやじたちがいて、一緒に周年行事を企画してくれる保護者たちがいる。だから、行事を成功させられたのです。

PTAの存在意義

ー長い間PTAに関わってきたBさんにとって、PTAとはどういうものですか。

Bさん
いろいろな人に出会い、勉強させてもらっている場ですね。PTAがなければ出会えなかった人にたくさん出会えました。人は地域の中で育ちます。子どももそうですが、親も地域の中で成長するんです。子どもも大人も、たくさんの人に出会うことが大切だと感じています。
PTAは会社と違って報酬が発生しませんし、上下関係がありません。だから、無理なく、楽しんで参加できることが大事です。

共働きが増え、大人たちは生活するだけで一生懸命です。時代の変化に合わせてPTAも変えていく必要があります。
大人の本気を子どもに見せられる場所は、それほど多くありません。PTAがそんな場所の一つになれたらいいなと思っています。

おわりに

PTAを変えてきた会長が見つけた「PTAをラクにするあり方」は、次のようなものでした。

・できる人が、できるときに、できることをする
・活動の目的を明確にする
・やることとやらないことを分ける
・楽しんで参加できる形にする
・一緒にやる仲間を作る

「結局、自分が子どもの頃にやってもらって嬉しかったことを、今、やっている」。そう話してくれたBさんの嬉しそうな顔が、答えの一つのように思います。

地域と学校とをつなぐPTAの役割は、時代に合わせて変わっていきます。
しかし、時代が変わっても、残していきたいものは何なのか。
親から子へ、上の世代から次の世代へ、何を残していくべきなのか。
それを見つめれば、ラクで楽しいPTAにできるのではないでしょうか。


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