うそんこ地学事典 9. 付加体

ごく初期の地球は表面が火のように燃えていた。しばらくすると、表面は冷えて、降り注ぐ雨によって、海水に覆われた地球となった。このままでは、海の生物しか住むことができないじゃないか。毎日海鮮料理ばかりでは飽きるし、たまには牛や豚の肉も食べたい。いや羊でも山羊でもよい。場合によっては馬でもよいのだ。桜肉はとてもうまいよなぁ。来る日も来る日も提供される豪華な海鮮料理に飽きてきた神さまたちは、地球に陸を作ることを計画した。

イザナギとイザナミの2人の神は、「頼むから立派な陸地を作ってくれ」と他の神々に頼まれた、そこで、彼らは海の水をグルグルかき混ぜることにした。そう神のレシピに書いてあったのだ。だが混ぜても混ぜても、うず潮が出来るだけで、一向に陸地ができる気配がない。そこで、苛立ったイザナギが長い棒でエイッと海底をつついてみた。すると、棒を刺した海の底に傷ができて、そこから海水が地球の内部に流れ込み始めた。それを見たイザナミは、このままでは海の水がなくなって、肉料理はおろか、海鮮料理も食べられなくなると、大慌てで、イザナギが海底に突き刺した棒を抜いた。

なんとか海の水が全部地球内部に吸い込まれることは避けられたが、海水が少しだけ地下深くに流れていったようだった。「ああ、海水が減っちゃったよ。雨が沢山降らないと、海水準低下が起きてしまうよ。」イザナミは、イザナギの所業にすこし憤慨して、ふくれっ面になった。「何を膨れているんだ。そんな顔をしていると、顔が爆発するぞ。」イザナギがイザナミにそう言いかけた瞬間、本当に大爆発が起こった。

ドカーン!静かな海の表面が水しぶきを上げて、吹き飛んだ。しばらくすると白い煙が立ち上り、やがてそれが黒い煙に変わっていった。「うわぁ、えらいことになったな。海の一部が真っ黒になったぞ。マックロクロスケの大集合だ。」とイザナミが驚いていると、イザナギが叫んだ。「おい、見ろ。島が出来ている。陸地だぞ。やったぁ。。。ついに陸地ができた。俺が棒でツンツンしたからだぜ。えっへん。俺はこれで、英雄だな。」

本当のところは、イザナギが棒を突っ込んだ穴から海水が地下のマントルに入って、マントルの岩石を溶かす温度を下げたのが原因なのだが、イザナギもイザナミも神学校で、地学の授業のときにずっと居眠りしていたので、そんなことに気づいてはいない。とにかく地下のマグマが海底火山として噴き出して、初めての陸地をつくったのだ。この辺りの様子は、「うそんこ地学事典 3. あんざんがん」にも書いてあるので、読んでほしい。そして、このあと「うそんこ地学事典 4. げんぶがん」にもあるとおり、富士山という火山も大地に聳えることになる。

イザナギとイザナミに陸地を作るように頼んだ神さまたちは、小さな陸地がまがりなりにも出来たことは喜んだ。しかし、余りにも小さい。牧場を営んで、黒毛和牛や黒豚を育成して、美味しいお肉料理を食べるには不十分な大きさだった。「おい、イザナギとイザナミよ。この陸地を、広い牧場が出来るくらい大きくしなさい。そうじゃないと、肉料理が食べれんのよ。」神々は、再びそのように命令した。

困り果てたイザナギとイザナミは、不二山になりきっている玄武の蛇に頼み込んだ。「お願いだ。もっと噴火して沢山の土砂を海に送り出して、海を埋め立ててくれ。そうすれば、陸地が増えて、広くなるはずだよ。」すると、富士山は、「任せとけ、地球のマグマは永遠に不滅じゃぁ。」そう叫ぶと、噴火を続けた。すると山から流れ降る溶岩や火砕流、河口から噴出する火山灰などが周囲に積もっていった。雨が降るとそれらは流されていくが、減ったかなと思うと次の噴火で積み上がる。どんどん噴火が続いたのである。雨で流された土砂は、川を流れ降り、陸地の周りの海に流れ込み、イザナギとイザナミの希望通り、少しずつ陸地を広げていった。

しばらく噴火していた不二山であるが、ある日パタッと噴火を止めた。「あかん。もうマグマあらへんわ。もっと海の水が地下深く入っていってくれんと、マグマがでけんわ。」そう嘆いた。そこで、イザナギは、今度は棒ではなく、板を海底に突っ込んで、大量の水を流し込もうとした。しかし、今度は水どころか、海底そのものが自ら沈み込んでいってしまった。海洋プレートの沈み込みが開始した瞬間である。この沈み込みのおかげで、富士山どころか、御嶽山や榛名山など沢山の火山が出来て、大量の土砂が沈み込んだ場所に集合し、陸地がどんどん広がっていった。

この大量の土砂のおかげで、広い土地が広がり、神々は、念願の牧場をオープンすることが出来た。神々は、初めてできたこの牧場を祝して、「おいわい牧場」と名付け、黒毛和牛や黒豚などを育成した。毎日毎日、肉を食べ続けた神さまたちは、コレステロールが瀑上がりし、腹囲はとんでもない数字となった。神さまたちは、膨れ上がったお腹をさすりながら、「これは、皮下脂肪じゃないんじゃ。お腹に新たに付け加わった部分じゃから、付加体と呼ぶことにしよう。」神様は、自分の下腹部を付加体と名付けて悦にいっていた。神様たちは、寄り合いで、互いのお腹の自慢をしては、競って肉を食べ続けた。そして、肉を作る牧場をもたらしすために、広げられた陸地部分も付加体と呼ぶことにしたようである。

現在は、火山の噴出物だけではなく、海からやってきた贈り物も含めて、付加体と呼んでいるようだが、それは次の「うそんこ地学事典 10. 海洋プレート層序」で詳しく語ることにしよう。

ところで、みなさんは、健康診断の腹囲測定のときに、息を吐いて、お腹を凹ませたりしてはいませんか?せっかく立派な付加体の価値が下がりますよ。ぜひ堂々とお腹を膨らませて計りましょう。そうすれば、付加体も喜ぶこと間違いなしです。
その代わり、再検査となることも・・・間違いなしです。ふふっ。

注:地球上に海しかない時代には、魚もいなかったし、陸ができたばかりのときに牛も豚もいなかったのだが、神さまたちは、オールマイティなので、何でもできることで、お許し願いたい。。。