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降り落ちる雨は、黄金色#20

 遠くで、夕方の五時のチャイムの音が聞こえる。無人の公園。置き忘れた玩具が砂場に埋まっていた。空は、インディゴブルーと橙色の絵の具を混ぜたような色になっている。

 すべてが癪に障る。そして、いつもの絶望ごっこをする。小説何か本当に書けるの?才能なんてない癖に。佳代に依存して、この街で何者にもなれずに就職して生きればいいよ。そのほうが楽だよ。だって君は普通なんだから。そうだ。私なんてこのまま、消えてなくなってしまえばいい。

心が真っ黒に染まっていく。自己嫌悪の大きなマントに包まれ幻聴が聞こえる。声がどんどん大きくなる。

怖くなり近くの電信柱の前でうずくまった。とにかく走らなければと思い、光の指す方へ向かった。

 明るい所を目指し走ると、黄色い自動販売機の前に辿り着いた。それは、周囲の景色と全く調和していない。独特の色彩を放っていた。

価格破壊の一本八十円のコーヒーやコンビニで見たことの無いような、ダサいフォントやありえない配色の安いキャッチコピーの缶が並んでいた。こんなジュース一体どこで売っているのか?何処となく違法な匂いがする。おかしい。不思議と笑いが込み上げてきた。

 走って喉が乾いていたので、温かい百円のほうじ茶を買った。オレンジ色のペットボトルの蓋を開け一息つく。パッケージは安っぽいが、味はちゃんとしていた。ほうじ茶の温もりで心が安定してきた。温かいってこんなにも幸せだったんだ。

 私は自動販売機のラインナップを撮り、佳代に送った。しばらくすると、彼女のお気に入りのくまのスタンプが送られてきた。

スマホの万歩計のアプリを見ると本日の歩数が五キロと表示された。万歩計の歩数が十キロになったら、今夜はよく眠れる。黒いマントも居なくなると自己暗示をかけた。私は見えない何か取り憑かれた様に歩きだした。

 どんどん辺りが薄暗くなってきた。iPhoneの灯りを頼りに歩いていると、いつもの図書館にたどり着いた。夜中の七時を過ぎてもお客さんは多い。図書館にいると世界から隔離されたような錯覚がする。 

 立ちながら新聞を読んでるお爺さん。目を一 切合わさない受付嬢。のっぺりとした旧式のパソコンでインターネットをしているおじさん。誰も他人に興味も関心も持たない。マウントをとる同級生もいない。競争も外敵も存在しない。そんな閉ざされた空間に入ると安心する。

 しかし、一人は楽ちんでストレスゼロだが、 喜びも悲しみもない。感情が一切動かない。 まるで、モノクロの世界にいるみたいだ。みなどこかの戦場から逃げてきたかの様に、疲れた顔をしている。 

図書館は人類最後の、避難場所なのだ。

 文芸コーナーに行き、小説のマニュアル本を立ち読みする。長いだけで全然参考にならない。すぐに本棚に戻し、別の本を読んだが、どれもピンとこない。三行くらいで要約して欲しい。

 苛立ちを抑える為に、ポケットからオレンジのグミを取り出し噛み砕いた。柑橘系の匂いが口の中に広がり少し落ち着いた。気分転換に漫画でも読もうと思い本棚を物色すると、そこで鈴木奈津美に遭遇した。

つづく、

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