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2022SS_調べたもの_春の定義:仮説3

 こんにちは、わたしです。筆が進まなかったのは、行き詰まったからです。欲しいデータがなくて、それを探していたからです。データを取り扱うスタイルとしては、中立さを欠いていて、最悪です。

海の春の定義について、前回わたしは魚の分布密度ではないことを知りました。こうなると魚が元気になることくらいしか思い浮かびません。これを活性と言うそうです。では活性を決める変数はなんなのか。

 今日はその仮説3について。もう東京の海は遠くに春になってしまったけど、最後まで読んでもらえたら嬉しいです。そしてもうひとつ。この仮説は活性の因子ではなく「魚の流入」を題とします。つまり、一度は廃案になった魚の密度における季節変動を取り扱います。

仮説3:回遊魚(死滅回遊魚含む)の流入

  回遊魚って海流に乗ってやってくるのだと、生まれた時からそう思っていました。平文としてそう書いてあるwebサイトはいくつもありましたが、根拠が明示されていません。まるで世界の常識か何かのようにそれを前提として進んでいて、わたしは大変困りました。どこにでもそう書いてあるのに、どこにもそう書いていない。それが自分の信じてきたことだとしても、わたしにはその何かわからないふわふわしたものに準拠して論ずることが、どうしてもできませんでした。
 故に、海流からのアプローチを諦めました。(ほら、こんな風に海流が目に見える絵とか用意してたのに。これは2022/6/13 20:00くらいの絵です。黒潮が見えますね。この海流に乗ってやってくる魚、本来は東京の海では生きられない種別を、死滅回遊魚といいます。今回の仮説で取り扱いたかったテーマですが、いつかこの先にputoffします。)

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 回遊というくらいなので、今回は回遊魚の動機からはじめます。気が進まないけど、しょうがないです。回遊の種類は大きく分けて3つあります。

・環境抵抗による適温回遊
・産卵のための産卵回遊
・ベイトを追う索餌回遊

 これらが東京湾の魚の密度に及ぼす季節変動を調べます。

 最初に下表1.に富津沖における魚種別の出現状況を示します。魚種別に最も出現数が高かった月を10.0とし、相対的に各月の出現状況をまとめました。red色の編みかけの箇所が年間を通して出現数が多かった上位3位の月です。green色の箇所が同様に、下位3位の月です。

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図1.富津沖におけるまき網漁獲物中の魚種別月別の出現状況

 いつもの通り相関係数は以下の通りです。

表1.富津沖におけるまき網漁獲物中の魚種別月別の出現状況と月毎の平均気温及びその相関について

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 相関がないです。次です。春と初夏の季節変動について。

表2.富津沖におけるまき網漁獲物中の魚種別月別の出現状況の季節変動について

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 疑わしいほどに季節変動があります。でも。本当にこの魚たちは回遊してきているのですか。それが核心だと思います。最近自分が何を調べているのかわからなくなってくることがあるので、注意が必要です。
 ここからその根拠を探ります。

スズキやマイワシ,さば類は,水温の低下する冬春季にはより外海に近く水温の高い内房地区で漁獲されるようになり,水温の高まる夏秋季には富津,北部といった湾奥で漁獲されていた。スズキに関しては,10月下旬から2月下旬にかけて,富津岬以南の富津,内房で産卵を行うとする過去の報告(渡部 1965)があるが,特に北部でこの時期にまき網による漁獲が少なくなる点で今回の結果と整合的であった。

出典:魚種別の出現状況と回遊 p.30

マイワシに関しては,特に富津と北部では,過去の資源増加期に見られた未成魚北上群(平本1973)と似た分布回遊形式を示している。すなわち,5月以降東京湾口に現れ,その後夏秋季(8~10月)にかけて北に分布を広げ,主漁期となっている。
中略
11月以降は産卵や越冬のため南下回遊に移る。内房については,越冬・産卵期に当たる12月~4月に漁獲が多くなっているが,このときには東京湾奥近年はまき網漁獲物から見ても,富津までの回遊が主と思われた。
中略
さば類に関しても,マイワシと似た回遊をしていると考えられる。ブリに関しては,内房・富津でのみ漁獲が見られた。季節的な南北回遊を行っているが,マイワシやさば類ほど湾奥まで漁場が広がらない点に特徴があった。
中略
近年はまき網漁獲物から見ても,富津までの回遊が主と思われた。コノシロに関しては,富津と北部で10月~1月にかけて漁獲が多かった。同じく東京湾内の主要魚種であるスズキと比べ明確な北上や南下傾向は確認できず,特に富津では全期間漁獲対象となっていた。これは上述のようにスズキの産卵場は富津岬以南を中心に形成されるのに対して,コノシロの産卵場は春夏に湾奥から外湾にかけて広く形成される(加納ら 2011)ことによると考えられる。マアジに関しては,明瞭な北上や南下傾向は見られなかったが,漁獲量の多い内房では 8月~12月にかけて漁獲が多かった。

出典:東京湾千葉県沿岸の近年のまき網漁業の実態 p.27

まとめ
 つまりですよ。みなさんこの引用文を全て読んでいないと思いますので要約すると、下図の通りです。

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図2.魚種別回遊動向

 また、わたしは富津沖のみを観測地点としてしまったのですが、東京湾全体でみたら、湾内を適温回遊している魚種も見られました。
 今回の仮説のタイトルは、「回遊魚(死滅回遊魚含む)の流入」です。つまり、最初に述べたように、外から、外国の海から東京湾に「流入」してくる魚についてはデータが見つかりませんでした。ただ東京湾湾央の富津沖では、回遊魚による魚の密度に季節変動が見られました。

 今日はここまで。次の仮説も、気が進みません。

文献:
1)富山市科学博物館(1990).「とやまと自然」通巻48号
2)井上 元男, 岩崎 行伸(1971).水産海洋学会報第19号 129 to 134
3)近藤 恵一(1978?).イワシ類資源の生活諸条件とその資源量変動機構について 72 tp 75
4)阿部 司(2009).魚類の回遊・産卵を制御する要因と氾濫原環境への適応
5)海上保安庁(2022).海の情報 > 海潮流推算情報 > 潮流推算海域図 > 東京湾
6)中央水産研究所(2019).東京湾の漁業と環境 第10号 
7)加納 光樹,横尾 俊博(2011).コノシロ 東京湾の魚類
8)平本 紀久雄(1973).房総海域におけるマイワシの集合様式 千葉県水産試験場研究報告

 写真は週末に行った沼津のテトラです。何度か落ちそうになりました。

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