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拍子木が歌う夜

またこんな時間に思い出す。隣にあった音。
名前すら知らないから火の用心で検索して初めて名前を知る。


拍子木。


こどもの頃、といっても聞くことが出来たのは
ある程度夜更かしできる年齢になってからか。
隣の敷地に毎夜響く木がぶつかる音。

山と川に囲まれたあの場所に
音を遮るものなど殆どない。

歌うように響く。

歌も響いていたけれど。
お風呂に入れば
反対側の隣のおじさんも入浴中で酔っぱらいリサイタル中
。。。気持ちよさそう。


湯舟を出て愉快なリサイタルの反対側に戻って
耳を傾けても声は聞こえない。
二回ずつ木を合わせる音が近くに遠くに聞こえる。
ああ、こんな時間か。

窓の外を覗いても見えるのは
ぽつんと建つ電灯と綺麗に整えられた生垣、
そしてそれらを覆う暗闇。

あ、見上げれば星や月があったか。


あれだけ毎日聞いていたのに木を打つ様子を見たことがない。
当たり前ってこーゆーことなのだろう。

カンカン聞こえる音に対する好奇心すら暗闇に消えた。

当たり前の日常に拍子木の音がなくなった今
何のきっかけもなく突然思い出す。

そして何となくこのnoteに残す。

火の用心の思い出と実家が燃えた思い出が
全くリンクしていないのが記憶の面白いところ。

火の用心、拍子木、で検索を繰り返して
そういえばもっと幼いころに家の台所が燃えてたなぁ。
なんて呑気に思い出す。

大人に火事だと叫ばなかったことを怒られたけど
あの年齢でそもそも火事なんて存在知らないし
台所一面のオレンジの炎は怖いと云うより神秘的だった。

どちらかと言えば不快だったのはその後の
妙に鼻に残る焦げた匂い。

もう帰ることはないけれど
多分あの場所で貴重な体験をして成長したのだと思う。

また何かふと思い出す機会があればその時に。

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