文化

沖縄に対する評価は沖縄外からはとても大きく、沖縄は文化資源が豊富とよく言われる。街を歩けば三線の音を聴く。那覇市内ではそれは観光客を呼び込むための小道具のようなものかもしれないが、ちょっと住宅街に足を踏み入れて、普通の住宅から三線の練習の音や民謡が聴こえてきたときには確かにぐっとくる。新興住宅街が地元である私は、隣の家から「ドアを閉める音がうるさい」と文句を言われたこともあった。夜22時以降になれば周りはシーンとしていた。そんな街に住んでいた人間からすると、確かに沖縄は普段そこらじゅうで三線や沖縄音階、沖縄のリズムが結構夜遅くまで鳴り響いていて、ああなんて音に寛容な街なんだと感心する。秋頃にはそこらじゅうでエイサーの道じゅねーと呼ばれる行進のようなものが行われ、その辺のおばあがカチャーシーで両手を上げてきゃっきゃと楽しそうに踊る。市場には豚や魚がそのままの姿で並び、食文化も多様。自然と人間生活の結びつきはいまだに強く、旧暦でその季節を祝う家族の宴は、準備は大変そうだがみな心の底から楽しんでいるようだ。だから、「沖縄はなんて文化資源の豊かな土地なんだ」「この文化遺産をもっと活用するべき」と多方面から言われている。

ただなんだかしっくりきていないところが私にはあって、そもそも、文化と一言に言っても何を指すのかそれぞれ人によって違うのではないかということ。

そこで、wikipediaで「文化」という言葉を引いてみると、こういう文章が冒頭にあった。

文化(ぶんか、英語: culture、ラテン語: cultura)にはいくつかの定義が存在するが、総じていうと人間が社会の成員として獲得する振る舞いの複合された総体のことである。社会組織(年齢別グループ、地域社会、血縁組織などを含む)ごとに固有の文化があるとされ、組織の成員になるということは、その文化を身につける(身体化)ということでもある。人は同時に複数の組織に所属することが可能であり、異なる組織に共通する文化が存在することもある。


よくわからない。これは慣習という意味か?

ひとまず置いておいて。なんとなく私が沖縄に1年住んで思ったことは、「沖縄は文化的資源が豊かだ」という本土や沖縄外の人たちからの所見に沖縄ががんじがらめになっているのではないだろうかということ。沖縄には青い海があって三線や唄が響き、人は心が豊かで古来の慣習を大事に引き継いでいる。伝統芸能もまだまだ受け継がれており、工芸も盛ん。本土の人間がそういうイメージで沖縄に遊びに来るものだから、沖縄の人たちもサービス精神たっぷりにそこを強調して迎える。そういった本土の人が思い描く沖縄像に、沖縄が自ら尽くそうとしている。

私が大阪にいたときに「これは文化だ」と思うものは何だったか。自分と同世代の人たちがそこらじゅうで飲食店や小さなお店をやっていること。自分と同世代の人たちが、生活ギリギリのラインでやりたいことをやりたいようにやっているイベントや事象。そんなことが自分にとっては「文化」だった気がする。みんな大阪の伝統文化とまったく関係ないことをやっているが、私にとっては刺激的で日々それぞれのアイディアや考えから何かの着想を得ていたような気がする。けれども、さっきのwikipediaの文化の意味に当てはめるとそれは文化とは違うのかもしれない。みんな社会の成員を意識してはいないだろうし、身に付けるようなものでもなかったかもしれない。本来、一般的に言われる沖縄音階や三線やカチャーシーや旧暦のお祭りごとが、沖縄にとっては文化なのかもしれない。

シンガポールのThe Observatoryというバンドと日本ツアーしたときに、彼らが言っていてずっと頭にこびりついていることがある。(ちなみに彼らは新作をリリースした。おめでとう。最近は何も手伝えていないけれど。)彼らは、シンガポールを離れインドネシアのバリ島で音楽のリサーチを行ったことがある。そのときにガムランの師匠に言われたことが印象的だったと教えてくれた。「バリのガムラン音楽は、伝統音楽になるべきではない。音楽は常に発展していくもの。美術館に保存されるのではなく、常に進化しなければならない」と。

私は沖縄を見ていてたまに怖くなることがある。伝統、継承に固執すると、沖縄自体を美術館に保存し、時を止めることになるのではないだろうか。時代とともに変化することは、沖縄にとって良いことになるのか悪いことなのかはわからない。だけれども、若い人たちが伝統や長らく保たれてきた型をぶち破る瞬間を見てみたい気もする。

とにかく私はもう少しだけ、若い人が生き生きとやりたいことをやりたいようにやっている空間や時間や概念を、居住地沖縄に求めている。世間体を気にせず、汚いものも美しいものもぐちゃっと詰め込んだようなカオティックな現象をつくっては破壊するような、生きている心地のする、狂気のような愛憎のような、金のない奴らの本気の遊びを、自分の目で触覚で感じてみたい。もう浮世離れのリゾートは懲り懲りだ。

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山本佳奈子

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