だいたい嘘日記2

君にはきゃりーぱみゅぱみゅが足りない。

就職活動をしているとき、ESを見た先輩にそう言われた。2012年のことだ。どういう意味かわからなかったが、やたらと腑に落ちた。就職はできていない。

最近、日記が流行っていると思った。「日記」という株式があったら買っている。いまから大幅に値上げするだろう。ここは素直に便乗し、私も日記を書こうと思った。私にはきゃりーぱみゅぱみゅが必要だ。

「だいたい嘘」と書いているのは、仕事では本当のことばかり書いているので嘘を書きたいから。そして、出てくるであろう人たちに「私はこんなこと言ってないぞ」と言われたら、「だいたい嘘なので」と言い訳するためだ。

あとこの「だいたい」は「嘘」にかかっているだけではなく、「日記」にもかかっている。日記とつくと毎日書かないといけない気がする。継続は私が最も苦手とする美徳である。

だからこの日記は、「だいたい嘘だいたい日記」だ。

〇6月22日

締め切りがブロックのように降ってきて、私の周りを取り囲む。天災のように書いているが、私がまいた種、私が放り投げたブロックだ。仕事があるのはいいことだ。

自分の仕事のことだけ考えられる時間が、人生であとどれだけあるのか、と時々考える。周囲も変わるだろうし、私もいつまでも健康というわけにはいかない。あの時は仕事だけできてよかったな、と幸福に思い返す時期が来るかもしれないが、私は現在をすごい勢いで浪費している。SNSをぼんやり見ている。思い出す記憶はいつも凝縮して美しいが、生きている今は間延びして退屈だ。

油断していると、落ち込むので、なるべく楽しい方に人生を転がしていきたいなと思う。フンコロガシのように。偉そうなことを考えて、寝返りを打つ。まだベッドの中だ。はやく仕事をしてください、と私が私に言う。

〇6月23日

雨が降っている。大学時代の先輩のセンカワさんに誘われてストリップを見に行った。センカワさんは「山本さんはフェミ系のね、仕事もしているけど大丈夫ですかね」と言った。けっこう渋る私を、強気で連れ出したはずなのに、いざとなったら弱気だなと思った。「劣悪な労働環境ならつらいですね」と答えになっているのか、なっていないのかわからないことを答えた。

池袋ミカド劇場へ行く。入ったら写真撮影タイムだった。500円払うと一緒に写真が撮れる。女性たちは裸だったり服をきたりしている。銭湯などで他人の裸を見ることはあるが、蛍光灯の下でまじまじと見ることはない。気まずくなって目を閉じた。

お目当ては春野いちじくさんだ。出てきた瞬間から、うっとりした。似合う服を着ていたからだ。ストリップを見るといつも、なんで似合わない服を着ているのだろうと不思議に思っていた。でもいちじくさんは、白い肌に、明るく彩度の高い服が似合っている。髪も身体もつやつやで、とにかくうっとりした。演目がよく練られていることが、素人の私でもすぐわかった。つやつやした足を美しくみせるため、つま先立ちをしながら踊っている。

終わって劇場を出た。「すばらしいですね」と私は言い、センカワさんは「私は泣きました」と言った。「体幹を鍛えなきゃ」と私たちは誓いあった。家に帰っていちじくさんのブログをみたら、私がかかわった『STUDIO VOICE』の感想を書いていた。仕事、やっていてよかった。

〇6月27日

さっそく4日空けてしまった。継続は苦手だ。なんならこの日の日記も3日後に書いている。私は組織Xで週1のアルバイトをしていて、その飲み会に参加した。アルバイトは基本的に学生ということになっているが、大学院生も多く、私と歳が近い。

すぐ帰る予定だったが、お酒が入ると、転がるように飲み始めてしまう。

2次会で大学生Y君が「俺は高校時代モテモテで、バレンタインデーは靴箱にチョコが入っていた」と言い出した。Y君からその面影は感じないが「痩せていたんです」と言い張る。そうしたら、社員のSさんも「俺も小学校のとき足が速いのでモテていた」と言い出し、博士課程のIさんも「俺もモテていてストーカーがいた」と言い出した。

そうしてみんながはり合っていたら、社員のWさんが「俺は、全然モテたことないな」とニコニコ言ったので、その場にいた女子たちが「Wさんが一番モテですよ」「それが一番モテなんですよ」と心を鷲掴みにされた。モテの道は急がば回れだと思った。

気が付いたらY君とIさんと3人で、早稲田の公園で飲んでいた。なんか途中まで楽しかったはずなのに、Y君が女性蔑視的な発言をしたので、めちゃくちゃに怒って、口論になってしまい、近隣住民に通報され、警察が来て、免許書の提示を求められ、いい歳やって何やってんだと反省した。もう二度とこんなに飲まない。

〇6月29日

ワルヤマさんに誘われたイベントに行こうとしたら、肝心のワルヤマさんがそのことをすっかり忘れていて、私は新宿の道ににょきにょき生えている石の上に座って、ぼんやりと30分すごした。新宿の風は、若者とか、客引きとか、観光客とか、中華屋とか、コンクリートの壁とか、いろんな人やものに当たっては跳ね返っているので、生温かい気がする。

ワルヤマさんに会ったら「楽しみにしていたのに、忘れるなんてひどい」と大げさにごね、罪悪感をもってもらい、自動販売機でコーラでも買ってもらおうかと思っていた。しかし「ごめんごめん」とみるからに重そうなリュックを背負ってあらわれたワルヤマさんが本当にへとへとで、もう本当にへとへとの見本みたいだったので、「へとへとですね」とねぎらってしまった。私は本当に人がいいと思った。

あまりにもへとへとだったので、ちょっとした上り坂があったら、ワルヤマさんのパンパンで重そうなリュックサックごと後ろから押し、息があがっている様子だったら手をパタパタさせてあおいだ。黒くて大きな動物と散歩しているような気持ちになった。ワルヤマさんは朝4時起きで、沢山仕事をしたらしく「CEOみたいな日だった」と一日を振り返っていた。CEOはこんなに大きなリュックを持たないだろう。

〇6月30日

めちゃくちゃに仕事をしている。

午前中は編集Mさんとサンドイッチ屋で打ち合わせをした。そうしたら窓の外にサークルの同期でライターのキショ松君が見えたので、ダッシュで喫茶店を出て「おーい」と呼んでも無視されて、肩を叩いたら気づいてくれた。呼び止めたのはいいものの、特に話すことはなかった。「久しぶり、じゃ」と帰ろうとしたら、「俺、携帯壊れたからLINE教えて」と言ってきて、でも携帯電話は喫茶店に置いたままだったので、もともとキショ松君が行く予定だった喫茶店に後で合流することにした。

サンドイッチ屋に戻って「友達がいました」とMさんに言ったら「はは、自由……」と言われ、打ち合わせの最中だったことを思い出した。レジの前で、スマホカバーに挟んだ1000円を出そうとして「ここは、いいですよ」とご馳走になった。「そうやってご馳走になるのが、フリーランスしぐさなんでしょ」と言われ、Twitterになんでもかんでも書くものじゃないと思う。

なぜかMさんも喫茶店についてくることになり、キショ松君とMさんと私と3人でコーヒーを飲んだ。意外と話は盛り上がった。キショ松君は田舎出身なので、「俺だけがラーメンズを知っていると思っていた」と言っていて、田舎出身の私はすごく共感した。

私が「出版社の人はすぐ出版不況の話をするけれど、あまり知らないおじさんの景気の悪い話を聞きたくない」と言ったら、「それはサラーリーマンしぐさだ」とMさんにいさめられた。

「また近いうちにね」と言ってキショ松くんと別れたが、2日後かもしれないし、1年後かもしれない。友達がいるのはいいことだ。

明日は友人・ハヤオキさんと「レディバード」を見に行く予定だ。

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