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【#一分小説】適音《第七話》

 吉田たかおは、自らの胸に手を当てて、こう述べたそうにこちらを伺っている。
 「こちらのミックスピザ入れのフタが開かないのですが?」
 すると、宮尾もそれらしい雰囲気を感じてか、親切さんを装ってみた。
 「フタのこちらのツメにある取り外しレバーを持ち上げつつ、ゆ~~っくり、ゆ~~っくりと開けるといいとと思います。」
 すると、吉田たかおは満足げに、やはりこちらを伺い、物知り顔でこう告げた。
 「こちらのミックスピザ入れのフタが開かないのですが?」
 宮尾は間髪入れず、身振り手振りを交え、丁寧に教えてくれた。
 「フタのこちらにありますツメの、取り外しレバーを持ち上げながら、ゆ~~っくり、ゆ~~っくりと、フタを引き上げると開きますよ。」
 若干好戦的のようであるらしかった吉田たかおも、これには溜飲を下げ、しっかりと前を見ながら、
 「こちらのミックスピザ入れのフタが開かないのですが?」と、当然の疑問を投げかけた。
 宮尾は、吉田たかおに一瞥もくれることなく、立て板に水の如く語り始める。
「こちらのフタの上側に付いておりますツメ、ここの取り外しレバーを持ち上げつつ、フタをこう、ゆ~~っくり、はい、ゆ~~っくりと引き上げると、開きますよ。」
 吉田たかおは、宮尾の鼻の治りが快方に向かっていると見るやいなや、
 「こちらのミックスピザ入れのフタが開かないのですが?」
 宮尾は、冷静かつ大胆に吉田たかおの脳天に肘鉄を三発喰らわせた。
 「4!回!目!」
 世の中は決してひとりのために回っているものではない。
 しかし、果てしてそうだろうか。

(つづく)

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