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【ミュージカル!な読み物】 「ユニゾン」という奇跡。


ここ2〜3年ほど、ミュージカルの現場にたずさわることが多いです。自分が出演者であることがメインですが、ときにはワークショップなんかに歌唱指導で呼ばれることがあります。

今日は、僕が歌唱指導としてミュージカルの「歌」を人に教える際、かならず話すようにしていることについて書いてみます。ミュージカルに興味がある方にとって、なにかしらの参考になればいいなあ。



さて、さっそくですが。

「ユニゾン」という言葉を知ってますか?

これは、音楽用語のひとつで「複数の人が、同じ言葉を、同じメロディ(音程)とリズムで、同時に歌う」という状態を指し示しています。

「ハモって歌う」ことの対義語、とでも言えばいいでしょうか。ちなみに、「ユニゾン」を日本語に訳すと「斉唱」ということになります。

この「斉唱」つまり「ユニゾン」は、多くの人の人生を振り返ってみると、もっともベーシックな歌唱方法なんじゃないかなって思います。

思い返せば保育園の頃(僕は保育園に通ってました。幼稚園に行ってたって人もいるでしょう)、「幸せなら手を叩こー♪」とみんなで歌っていたのはまさに「ユニゾン」です。4〜5歳児が綺麗な三部合唱とかしてるのは、僕はあんまりみたことない。

小学校も3年生以上になったり、すると「合唱」という概念を教えられて、ハモるという体験をすると思いますが、かといって日常生活に「ハモる」が溢れる人というのは少数派かと思います。

テレビから流れてくるヒットソングをなぞって歌えば、それはそのアーティストと「ユニゾン」で歌っていることになります。友だちとカラオケで盛り上がるときも大方は「ユニゾン」で歌っていることでしょう。

さいきん話題になっているQUEENの大ヒット曲「We Will Rock You」のサビ、あの超有名な「We will, we will rock you」というフレーズをみんなで歌うときも「ユニゾン」です。

「ユニゾン」というのは多くの人の音楽体験にとって、もっともありふれた、もっともベーシックな歌のかたちなのです。


ですが、これがミュージカルとなると話が変わってくるのです。なぜでしょうか。


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結論を書く前に、もう少しだけ僕の質問に付き合ってください。


では質問です。

あなたのこれまでの人生を振り返って、(歌など、意図的に合わせようとしたとき以外で)自分以外の人と、まったく同じタイミングで、まったく同じ言葉を口から発した機会は、何回ありますか?


さて、どうでしょう。

偶然に、自分以外の誰かと、同じタイミングで同じ言葉を言ってしまうこと。たまにありますよね。その瞬間、「わ!同じこと言っちゃった!笑笑笑」みたいに大方の場合、いま起きた出来事についてひとしきり盛り上がることと思います。そんな経験、あったでしょうか。

ではそんな風な「わ!同じこと言っちゃった!」って、何回ぐらい経験したことあるでしょうか?

僕自身考えてみたところで正確な数はわからないのですが、推測するに10〜20回のあいだなんじゃないかと思います。さらに多く見積もったとしても、30回ぐらいかなあ。人生を通して。

僕はいま29歳なので、つまり、30回あったとしても、年に1回そんなことがあるかな、ぐらいの頻度ということです。かなりレアな出来事ですね。


でも、これがミュージカルの中となると、上演している2時間半の間にこの現象が何十回何百回と起きるのです。なんてことだ。


「自分以外の人と、まったく同じタイミングで、まったく同じ言葉を口から発した機会」を別の言葉で言い換えると、すなわち「ユニゾン」です。

あるいは、「音程が一緒」という要素を除けば、ハモリながら同じ言葉を歌っているという箇所も、「自分以外の人と、まったく同じタイミングで、まったく同じ言葉を口から発した機会」だと言えます。

そう考えてみると、ミュージカルの曲の中って、「わ!同じこと言っちゃった!」の連続だってことがわかります。

日常生活では「年に1回ぐらい」の出来事が、ミュージカルだとポンポンポンポンあらわれるのです。なんて奇跡・・・!!!


「そんなの当たり前じゃん。歌なんだから」

そうお思いの方もいらっしゃいますか?

じつはこの意見、とても重要な問いを孕んでいます。やっぱりミュージカルのなかでも「わ!同じこと言っちゃった!」は奇跡なのです。それがたとえ歌だとしても。

なぜ奇跡なのか、考えてみます。


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これを考えるには、そもそもミュージカルにおける「歌」とはどんな役割を持っているのか、についてに目を向けてみる必要があります。そもそもミュージカルの中に出てくる「歌」ってなんやねん、ってことです。

これについてはすでに、多くの人がその答えを知っているんじゃないかな。たくさんの俳優、演出家、作曲家、劇作家がこれについては言及しているから。

そう。ミュージカルにおいて「歌」はずばり、「セリフ」です。

セリフの延長線上に「歌」があるのです。これが原則。(原則、って書いたのは、そうじゃない場合、つまり例外もあるから)


ミュージカルのなかには「芝居・歌・踊り」という3つの表現の方法が出てきます。このなかでベースになってくるのは、やっぱり「芝居」です。すべてが「芝居」から生まれてくる。

お芝居なので、セリフでのやり取りで物語が進んでいきます。主人公がいろんな人に会い、ときに夢を抱き、ときに愛を求め、障害に阻まれ、それを乗り越え、あるいは挫折し、なんとか生き延びるなり、悲惨なことに命を落とすなどして、終幕を迎えます。

そうやってセリフを使いながら登場人物たちがその世界を生きていくなかで、「どうしてもセリフだけでは衝動や欲求を表現できないとき」が訪れます。セリフだけじゃ足りな〜〜〜〜〜〜〜ああああい!!!!!!!

そうなったときに、ミュージカルの登場人物たちはどうするのか。もう答えはお分かりでしょう。

そう、歌いだすのです。

で、歌だけだと足りな〜〜〜〜〜ああいいい!!!!ってなると、踊りだします


この説明の仕方はかなり簡略化させちゃってるので、もちろんこの順序に当てはまらないミュージカルやシーンはいっぱいあるのですが、原則としてはこの考え方で間違いないと、いまのところ山野は考えています。あくまで、原則。


そうするとやはり、「セリフだけじゃ足りないから歌」だからつまり、「セリフの先に歌がある=歌のベースにはセリフがある」ということになりわけで。

ただ音楽が鳴るからそれに合わせて歌ってる、わけじゃないのです。

確かに日常的な音楽の世界では、「音楽が鳴るからそれに合わせて歌う」のが一般的に考えられる「歌」です。

でも、ミュージカルではそうじゃない。まず初めにドラマがある。ドラマとは、その瞬間の舞台上の状況や、登場人物たちの状態・感情・欲求・衝動のこと。

舞台上の状況が変化するなり、登場人物の状態があるポイントを超えるなりしたから、そこから音楽が生み出されるのです。音楽ありきではなく、ドラマありき。ドラマなきところに、音楽は生じず。これがミュージカル。

この辺が上手く成立してなくって、「音楽が鳴ったから歌ってる〜」「音楽に歌わされてる〜」ってなると、世にも有名な、あのタモリさんが嫌いだと公言する、「ミュージカルはさ〜、突然歌いだすからさ〜」状態になるわけです。


だから、ミュージカルの世界においては、

「みんなで同じことを言うのが奇跡?そんなことないよ。歌なんだからあたりまえじゃん」

という発想は、まず疑ってかかった方がいい。

僕はミュージカルワークショップに歌唱指導として呼ばれたときにはかならずそう話します。

「みんなで一緒に歌い出すところは、まず疑おう。当たり前に受け入れちゃダメだよ」って。なぜならそこには、めちゃくちゃ膨大な奇跡が詰め込まれているから。

だって、言葉だけじゃなくって、音程も、リズムも、タイミングも、ぜーんぶ揃ってるんだよ。ときには二人の人間が、ときには100人規模の人間たちが、音程もリズムもタイミングもぜーんぶ揃って、同じ言葉を口から放つわけですよ。

これが奇跡じゃないとしたら、何が奇跡だというのだろう。



もっとも簡単な表現に見える「ユニゾン」ですが、じつはかなり強いエネルギーを湛えた、奇跡的な表現なのです。

何も考えずに臨めば、オーケストラの音や他の出演者の歌声の影に隠れて、消極的に歌うことだってできてしまう「ユニゾン」。でも、真髄はそこじゃない。

きっとこれは、踊りでも一緒ですよね。踊りのなかにある「ユニゾン」。これも強い力を持っている。


たかが「ユニゾン」、されど「ユニゾン」。



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山野 靖博(ぷりっつさん)

声楽家、俳優、ミュージカル、歌の先生。山梨出身。歌って、教えて、考えます。

芝居について

俳優であり歌手である山野靖博が、芝居について考えて書いた記事をまとめてあるマガジンです。
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