20240225_宝塚はドーミーインであり、ドーミーインは宝塚

嫌な夢を見て目覚めた。
大学の新学期が始まり学生が教室にたくさん待っているはずなのに電車に乗り遅れて遅刻し、しかもそれを強く他の先生から詰られる夢、治安が悪い街を歩く夢、トイレに入っているのに友人が話しかけてくる夢、それぞれのエピソードがゆるやかにつながりながらのオムニバス上映だ。

ねっとりとした感情を胸に抱きながら娘の布団に潜り込み、しばらく足を温めてからガバと起きあがった。
今日は夫と二人で観劇に出かけ、娘は私の実家に預ける日だ。

わぁわぁと言いながら準備を済ませ、外に出たら寒い。そして大粒の雨。
夫は私の実家まで歩いて娘を送りだすことを提案したが、大人の足で10分かかる距離のところ、寒い雨の中を娘と手を繋いで歩いてどれくらいかかるのかわかっておらんのかと一瞬で却下し、自分が濡れるのも構わず自転車を爆漕ぎして娘を実家に送り届けた。よく母は強し、みたいなことを言うけれども、強いとかではなく色々なことを瞬時で天秤にかけるとやむにやまれずそうするしかないのだ。

夫とは最寄駅で待ち合わせ、連れ立って劇場へ向かう。

今日の演目はずっと楽しみにしていた宝塚の「RRR」である。

劇場に着き、座席でソワソワ上演を待っていたらじわじわトイレに行きたくなり、並ぶ。
前に並んでいる人が、野球のルールはわからないがどうやら宝塚と制度が似ていることがわかってくるなどと話している。
そっと聞き耳をたてると、試合を見ているとスター選手と脇役的な選手が浮かび上がって分かってくるのが宝塚のスターシステムと同じであること、横浜ベイスターズの三浦大輔のリーゼントが綺麗で、宝塚を見慣れているからこそリーゼントをヤンキーの象徴ではなく男の美学として認知できるのだということ、そしてリーゼントでスーツをバシッと着こなしてドラフトに現れた三浦が宝塚スターのようにかっこよかったことなど、宝塚ファンの枠組みで野球を語った。

用を足して、トイレで手を洗うと蛇口から温かいお湯が出てきてくれてありがたい。

それにしても宝塚は劇場トイレの洗面所でお湯が出たり、どの席からも舞台が見えやすくしかもイスはお尻が痛くならないようにできていたり。さらに物販を入れる袋は劇場内でカサカサしないものになっていたり、ブロマイドを買うと店員さんが折れ曲がらないように宣伝用の冊子に挟み込んでくれたりと、ちょっとした心遣いが本当に素晴らしいが……もしかして……これは…………ドーミーインなのではないか。

夜鳴きそば、全国全館共通のWi-Fi、大浴場、寝心地の良い寝巻き、ベッドのちょうどいい位置にあるコンセント、少し豪華な朝食など、ささやかな、しかし旅人のかゆいところに手が届く心配りの数々で熱烈なファンを持つドーミーイン。

宝塚はドーミーインであり、ドーミーインは宝塚であるのだ。
そんなことを考えながら鼻息荒く客席に戻り、夫にあれこれと作品の見どころを一方的に解説していたらあっという間に開演時間になった。

一通りの展開は知っているもののやはり生の人間がその場で演じていることの凄さがぐんぐんに迫ってくる。熱演につぐ熱演で客席もやんややんやと声援、は送れないのだが、惜しみない拍手が送られていた。

昨日は旅行者主催の貸切公演で、こうした公演はトップスターの特別挨拶のほか出演者のサイン入り色紙の抽選などが休憩時間に行われる。

夫がトップ娘役のサイン色紙を当てておりめでたい。

そのまま第二部のショーも楽しみ、充実した気分のままグッズをあれこれ購入して帰った。

帰る道すがら、夫は娘を預けて自分たちが宝塚を見に行った罪悪感が多少なりともあることを口にする。特に今回は娘が宝塚に興味を持ち始めたタイミングで、娘には宝塚に行くとは言わずに出かけたから当然かもしれない。

まだ降り続く冷たい雨の中実家に戻ると、娘と私の母は少し慌てた様子で「今から歯磨きするから!」と言っている。どうやらまだ私が食べさせていなかった飴を食べさせたらしい。

これで罪悪感はチャラだな。

皆でお土産に買ってきたシュークリームを食べ、
夜はそのまま実家で肉をご馳走になった。


明日はようやく晴れるらしい。
なんだかすぐには眠れず、布団の中でゴロゴロした。





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