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「なぜ」を問い、「そもそも」に遡って、「どのように」を問う:ゼミ11thのふりかえり。

今日の山縣ゼミ11thは、急遽オープンゼミ。

オープンゼミってのは、次年度のゼミを選ぶために2回生対象にオープンにするっていう催しです。

そこで、ちょうどのタイミングだったので、まずは自分たちがやってるプロジェクト(っても、まだ初訪問が終わったかどうかっていう程度ですがw)について、まず簡単に説明してもらいました。

そのあと、予定していたベルガンティ『突破するデザイン』のワールドカフェスタイルの理解&共有ワークショップ。

私自身、じっくり読む時間を取りづらかったんやけど、せっかくの機会なので精読に近い読み方で。ざっと読んだだけでも、なかなかいい文献やとは感じてましたが、精読してなおそれを確信しました。

「“意味のイノベーションを通じて価値を創造する”とは何の謂か」:経営現象への美学的アプローチの可能性

これこそが、この本の骨格にある問いではないかと思います。

実は、この問い自体、私にとってはそれほど新奇に感じるものではありませんでした。なぜなら、大学進学時に志望していたのが、日本の古典文芸(特に、和歌)の文芸学的研究だったからです。

文芸学という研究アプローチが現在どのくらい採られているのかわかりませんが、作品それ自体に踏み込んでいくというのは、ものすごく魅かれるものでしたし、今でも関心は強く持ってます。

何の因果か、入試で商学部に受かってしまい、文学部は不合格となってしまったため、しぶしぶ商学部に進みましたが、幸いにも他学部の講義を教養科目の単位に算入できたので、日本文学科の講義や講読を履修しまくりました。

ちなみに、文芸学って、どうしても主観的な作品評価が入り込むので、なかなか文学研究のなかでちゃんとした位置づけを得ることができていませんでした。それゆえに、方法論的な研究も多く、場合によっては「文芸学は、方法論の学だ」などという言説も見られました。しかし、私自身はかえって文芸学とは何か、文芸作品の魅力を明らかにするとはどういうことかを、学部時代から考える機会を得たわけで、今から思えば、かなりありがたいことです。

えらく話が逸れましたが、この文芸学について学んでいたときに登場したのが、ディルタイの解釈学でした。それ以来、解釈学や現象学といった哲学にも触れる機会がいくらかあったのです。

そして、今回のベルガンティの著作には、何度かガダマーの名前が登場します。ガダマーは、ご存じの方には言わずと知れた解釈学の大家です。ガダマーがおそらくフッサールから援用した〈地平〉という概念(←ここらあたり、哲学史的な考察を踏まえてませんので、誤りがあれば訂正いたします)が『突破するデザイン』には登場ひてきて、私自身はひとり盛り上がってました(笑)

さて、この節のタイトルからえらい遠い話を、と思われたかもですが、この〈地平〉という概念が本書でもけっこう基底的に重要な位置を占めているというのが、私の見解です。その際に頭をよぎったのが、⬇︎の本。

またもや篦棒な値段がついてますが、Amazonの古書でも、もっと安いですw

ここで出てくる〈期待の地平〉と〈美的隔たり〉という概念は、意味のイノベーションを考えるうえでかなり有益な思考枠組です。なぜなら、新たな作品がこれまでの〈期待の地平〉を覆す、あるいは異なる地平を提示するとき、そこに〈美的隔たり〉が生まれます。この隔たりが快であるか不快であるかは、人によっても異なり得ます。しかし、今までの〈期待の地平〉と同一ベクトルにある(と認識された)場合、それは量的な比較にとどまり、受容者に新たな世界を提示(啓く、と言ってもいいでしょう)することはありません。

ここまで述べれば、『突破するデザイン』を読まれた方は、その内容的相似に気づかれると思います。もちろん、これはベルガンティがヤウスを読んでいたということを言いたいのではありません。

ベルガンティが、価値創造の学としての経営学に感性論(美学)的アプローチを提示したことを肯定的に指摘したいのです。

なぜ、そう言えるのか。これは〈意味〉と〈価値〉の概念の関係性をみることで浮かび上がってきます。

〈意味〉は〈価値〉の判断基準である。

この2つの概念は混同されがちですが、当然ながら異なります。ベルガンティの著書にも3つの意味概念の理解が示されています。ベルガンティの著書では、〈価値〉とは何かについて、あまり詳しく触れられていなかったように記憶しますが、すぐれて個人に内在する基準として〈意味〉を捉えるならば、そこから生じる〈価値〉概念も主観的性質を帯びたものとして理解されることになりましょう。

ひとが〈価値〉を認識するという事態は、その対象に対して何らかの欲望を抱くということを意味します。この「欲望を抱く」際の基準体系となるのが〈意味〉なのです。先ほどの〈期待の地平〉概念と照らし合わせれば、このあたりは詳論しなくてもよいでしょう。

昨日のゼミでも、いちおうこのあたりの問いを示してみたんですが、さすがにここに反応できるメンバーはいなかったようです。少なくとも、報告レベルではでてきませんでした。

でも、〈意味のイノベーション〉っていうことを考えるなら、やっぱり「そもそも、〈意味〉って何?」ってとこまで考えないと、ものたらんわけです。だって、みんな対価(金銭に限られません)を払って何かを得ようとするとき、そこに〈価値〉を見出しているわけです。

ちなみに、ドイツの経営学者であるヴィットマン(Wittmann, W.)は、〈価値〉を「ある主体と客体との関係であり、その客体は主体にとって〈願望の光:Lichte der Lust〉のなかで映し出される」(1956,S. 63)と概念規定しています。

この主体と客体との関係を規定するのが、まさに〈意味〉であるわけです。だからこそ、〈期待の地平〉あるいは〈主体と客体との関係性〉としての〈意味〉を提示することが大事になるのです。

ここまでくると、「なぜ、意味のイノベーションが、今、重視されているのか」という問いに対する思索は、やりやすくなると思います。

てなことを個人的にはイメージしつつ、昨日のゼミ。

抽象的思索と具象的実践とを結びつけるための枠組づくりとしての今回の試み

今回の読解ワールドカフェ、1チームが企業さんへの訪問で参加できませんでしたので、それ以外の4チームで実施しました。

昨日のゼミで提示したスライド、お見せするほどのものではありませんが、参考までに。

私も、プロジェクトをやる以前のゼミでは、3回生の前期に共通文献をチームで輪読して報告するというスタイルを採りつづけていました。その当時は、「わざわざ大学で実践のまねごとをすることに何の意味があるのか」って、かなり強く思っていました。ただ、同時に経営学や商学といった領域は、学部学生だと現実事象のイメージがしにくいので(私も、もともと興味がなかったので、同様の点を感じていました)、理論だけ学んでもあまり頭に入ってこないのも事実です。だからこそ、前任校の時代から〈プロジェクト演習〉ってのを立ち上げてみたりもしてました。

で、2017年から価値創造デザインプロジェクトを動かし始めたわけですが、一昨年度と昨年度は合同ゼミでの研究報告において、理論的な観点と、メンバーたち自身のプロジェクト経験から得られた具象的事実とを突き合わせて考察するというスタイルでやりました。これのおかげで、全員とは言いませんが(笑)、なかには優れた卒論も出てくるようになってきたので、効果はあるように感じています。

ただ、プロジェクトと並行して理論的な性質を色濃く持つ文献を読むということは、今までしていませんでした。ただ、プロジェクトを展開していく際にも、単に「理論を当てはめる」のではなく、「現実事象を深く考える」ために理論的な思考枠組に少しでも触れておいてもらいたいと思って、今回の読解ワールドカフェを実施したわけです。

前置き長っ!(笑)

本日の展開は、シェアしたスライドのNo.20に記載してあります。ちなみに、読解ワールドカフェについては、前回に『フィールドワークの技法』を読んだときのnoteがありますので、そちらをご覧ください。

今回は、前回以上に理論的な色彩が濃厚だったので、メンバーも大変ではあったと思います。ただ、今回の文献は事例紹介もたくさんあるので、イメージはしやすかったんじゃないかな、と。

まずはプロジェクトのチームで。

チーム替えその1。

チーム替えその2の写真、撮り忘れましたw

こちらは元のプロジェクトのチームに戻って、最後の考察。

ちなみに、今回、このテーマに興味を持ってくれた廣田ゼミの4回生のOくんも参加してくれました。こういうの、嬉しいです。

今回のゼミを見てくれた2回生の3名の方がどんなことを感じられたのかも、けっこう関心ありますw

問いによって構造化することの大事さ

さて、ゼミメンバーのブログです。

以前に、佐藤郁哉『フィールドワークの技法』で同様の読解ワールドカフェをやったときには、「(ちゃんと読んで来んでも)まぁ何とかなるわw」っていう感じのメンバーも少なからずいました(そんなふうに感じましたw)。

そのときの効果か、今回は事前にちゃんと読んできてないというメンバーは、あまり見当たりませんでした(きっとそのはずだ!そう信じる!)。

ただ、今回の文献はなかなか手ごわい文献でもあります。実は「さらっと読んでみた」だけでは、なかなか深く酌み取るところまで辿りつけません。その難しさは、みんな感じていたようです。

そのようななかでも、それぞれが読んできてどう理解したのかを提示し、それを議論・共有することで深めるという課題は、ある程度クリアできていたようにも思います。

とはいえ、問題点もたくさんあるわけで。以下のような8項目についてコメントをしました。もちろん、これは怒ったり責めたりするような意図でやっているのではまったくありません。

メモですし、基本が内部用なので、そこらへんは大目に見てくださいw

特に、構造化して読むという点は、次回以降、意識してほしいところです。これができるようになると、現実事象を捉えるときにも、すごくやりやすくなるんじゃないかなと。

しんどいけど、抽象的思索と具象的実践とを往還することは必須だ。

プロジェクトが始まったばかりなので、メンバーたちのなかに「これってどういうことなん?」っていうような迫ってくる問題意識は、まだ醸成されきっていないかもしれません。もちろん、少しずつ湧き上がってきてるとは思います。

プロジェクトが本格的に動くようになったとき、今回やった〈意味のイノベーションを通じた価値創造〉という概念枠組がきっと生きてくるはずです(そうあってほしい…)。具体的な問いが自分のなかから湧き上がってきて迫ってきたとき、直面している課題の構造をクリアにしてくれる理論や概念枠組といった〈装置〉が、その能力を最大限に発揮してくれるのです。だから、今回この文献を読んで、それで終わりにしないでほしいし、終わりにしてしまわないような仕掛けを考えないとなって思います。

ということは、どこかでもう一回、読む機会をゼミで設けるってことですw

以前にも載せたコルブの経験学習モデルをどこまでゼミで応用できるか、実験を継続します(笑)

またいずれ調査しないといけませんが、経験学習モデルをビジネス系PBLに意識的に導入されているゼミや試みって、どれくらいあるのかも興味ありです。

直感で恐縮ですが、このやり方、効果はありそうな気がしてます。メンバーにとっては大変かもですがwww

楽しくガチで、ガチで楽しいゼミをめざして(笑)




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