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大阪球場物語

「この球場のいいところを教えて」
「屋根があって雨の心配がないところさ」

冗談のような会話が真実を帯びてしまう。訪れた人は目と鼻の先の甲子園と比較して良いところを探すが、辿り着くのは最初の言葉。

京セラドーム大阪は東京、福岡に続く3番目のドーム球場として1997年に誕生した。6つのリングを重ねた天井は宇宙船に入ったような気分。たこ焼きドームの愛称、スタンドが真円形で、すべての席が二塁ベース後方に向いている。光の照り返しが少なく目に優しい。

パノラマの開放感はあるが、応援の熱が濃縮される東京ドームより迫力に欠ける。左右中間が深くホームランが出にくい。パーク・ファクターではバンテリン(名古屋)、楽天パーク(仙台)に次いで3番目に本塁打が生まれにくい。いてまえ打線のイメージとは逆。ここで40本以上のホームランを放ったタフィー・ローズや中村紀洋がいかに凄かったか。

アクセスが良いかと言えば、そうでもない。難波から阪神電車で4分。かつて難波の駅前にあった大阪球場とは雲泥の差。1時間以内に4万人が捌ける東京ドームと違い、環状線や阪神電車、地下鉄と駅が分散するのに帰りは混む。

なによりドーム球場は大阪らしくない。道頓堀や通天閣、新世界のイメージが強いナニワにおいて、シティ的な匂いがするドームは大阪のアクが削がれてしまう。アンチ中央の地盤がなく、二番煎じになってしまっている。可もなく不可もなく。エンタメにおいて最もタブーな中途半端。

大学3回生のとき、弟と初めて東京ドームで巨人戦を観た。奈良から深夜バスで向かったビッグエッグはスーパー空中戦。さすがドームランの熱狂空間。しかし相手チームのファンが多く、なんなら地元よりお上りさんの広島ファンのほうが熱気がある。東京は東京人のためではなく、各地から旗をあげに来た寄るべなき者たちの街。ニュートラルな空間でありグラデーション。東京はジァイアンツの街ではない。

むしろ普段は肩身の狭い隠れキリシタンが大挙し、球場の95%がジャイアンツ・ファンで埋め尽くされる大阪ドームの巨人主催試合のほうが胸が躍った。試合は東京ドームのほうが面白いが、大阪ドームの巨人戦は年に1回しかない非日常性、サンクチュアリに溢れている。

オリックスは神戸グリーンスタジアムが似合うように、大阪ドームのブルーは巨人が最も似合う。


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