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用心棒

日本のプロ野球には「助っ人外国人」の伝説がある。最も有名なのはランディ・バースやウォーレン・クロマティ。いや、アレックス・カブレラの180メートル本塁打かもしれない。李承燁(イ・スンヨプ)とロベルト・ペタジーニがいちばん好きだった。暴れん坊ガルベスや乱闘男グラッデンも忘れてはいけない。巨人ファンとしてはヤクルトのジャック・ハウエルが怖かった。”放火魔”ミセリ、”神のお告げ”グリーンウェルも懐かしい。

1996年9月23日、がんばろう神戸。オリックス・ブルーウェーブのD・J(ダグ・ジェニングス)が地元グリーンスタジアムの日本ハム戦で放った同点ホームランは人生で初めて野球で泣いた。その試合のイチローのサヨナラ優勝ヒットより記憶に残っている。

上京直前の2013年10月、すでに優勝を決めた東京ドームでの巨人vs.ヤクルトの消化試合。金を取っておきながら、ここまでやる気がないのかと呆れるなか、代打で登場したジョン・ボウカーのフルスイングに感動した。結果は外野フライだが、どんなヒット、ホームラン、三振より脳裏に焼きついた。

MLBでは大谷翔平や山本由伸たちのことを「助っ人外国人」と呼ばない。出稼ぎであろうがチームメイトの一員として迎える。日本は「助っ人」「外国人」と完全にチームとは思えない単語を並べる。多民族国家のアメリカと島国根性の日本。用心棒を雇う感覚だ。

外国人をガイコクジンとして迎え、自分のポジションが奪われる者にとっては目の上のたんこぶ。山際淳司さんの本で「日本はアメリカからきた選手にすぐに結果を求めすぎる」と書いてあった。高い年俸を払った即戦力の中途採用だから当然と言えば当然だが、祖国を離れ、はるばる東洋の島国まで来た選手にとっては荒野。郷にいれば郷に従えは世界共通語ではない。

ヌートバーが完全にチームメイトでありブラザーでありファミリーであった空気がプロ野球の全チームに浸透するのは難しい。そう考えて本稿を書いていた矢先、新加入のオドーアの退団が発表された。オープン戦でプレーを観たが、居心地が良くなかったのは容易に想像できる。新加入の選手をどう迎え入れるか。プロ野球のマネジメントで最も難しい部分であり、最も可能性に満ちた課題である。


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