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桜色の夕暮れ〜恵比寿公園トイレ

夜を待つ公園は寂しさに包まれる。一日を終えるひと、これから一日を始めるひと。夕暮れに霞み、あったかい晩ご飯にワクワクしながら家路につく。令和二年八月に完成した恵比寿公園トイレは行き交う人々と車の黄昏を見守っている。

「無」を凝縮した背中は一見トイレだと気づかない。恵比寿駅から歩いて五分以内なのに、ずいぶんと閑静な公園。お世話になった登山家が上京した当初は恵比寿に住んでいたと言っていた。

夕方五時半、子どもたちの明るい声が飛んでくる。小雨が頭と肩をノックする。雨音が子どもたちの声と調和している。

無邪気さと対照に、トイレの中はラグジュアリー。高貴だが高飛車ではなく、あったかい。不思議な設計だ。デザインは片山正通。原宿で最も鮮烈とも言っていいNIKEストアのインテリアデザイナーである。

人工物なのに自然の匂いがする。まさにワンダーウォール。

近所の家族に加えて、仕事がつらそうなタクシー運転手さんも、このトイレを利用する。映画『PERFECT DAYS』に出てきたOLのように眼が死んでいる。そんなサラリーマンの日常を恵比寿公園トイレは上品に癒してくれる。

二日前に観た『レイダース/失われた聖櫃』のような冒険感のある光。あの向こうに行けばインディ・ジョーンズに逢えそうだ。

ほんの少しの非日常空間を味わい外に出る。見上げると子どもたちに負けないくらい桜が元気いっぱいに満開していた。


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