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食いだおれ白書〜千日前の啓蟄

啓蟄に大阪に来た。「けいちつ」と読む。二十四節気のひとつで3月5日前後のこと。「啓蟄」は「冬籠りの虫が春を感じて活動を始める頃」の意味。令和六年の大阪は寒かった。


DAY1:3月5日(火)

大阪は雨。深夜バスも40分遅れで到着。散々なスタート。そのほうがいい。あとは良いことしかないから。逆転ホームランの予感しかない。今日から3日間お世話になるホテルに荷物を預けに来た。15時からなのに今から部屋に入れる。ほらね。

ザ・ビジネスホテル。シンプルで食いだおれの宿に最高。有頂天ホテル。食いだおれ白書スタート。

喫茶アドリア

ホテルから徒歩30秒の喫茶店。明日からホテルで朝食が付いているので唯一お世話になる日。朝食抜きでいいから値段を下げてくれれば毎日通うのだが。

昭和53年(1978)創業。店名はイタリアのアドリア海から。ご主人のおばあ様が命名されたが理由は不明。さすが「知らんけど」の街。

天井はシャンデリア。いかにも貴族感のあるミナミの喫茶店。広いホールではなく、狭い空間の中に豪華な照明があるのが良い。光の濃縮。

壁にはシャンデリアの一輪。森と木。この組み合わせ見事。

モーニング400円。酸味の効いた珈琲、シャクシャク感の食パン。朝はこれくらい軽いほうがいい。まだら模様のテーブル、シャンデリアの淡い光、常連のお客さんがくゆらせる煙草。どこを切り取ってもミナミの喫茶店。

通天閣とスタジオK

黒門市場を横目に堺筋を南下。大阪に来たら通天閣に挨拶したい。

雨の通天閣。タワーと空色が同調。これもまた味がある。いつも行くスタジオKで散髪。3ヶ月ぶり。気持ちくなった。昭和生まれの人間。男の髪と女のスカートは短いほうがいい。

あづま食堂

この旅、最大、最幸の出逢い。今まで知らなかったのがもったいない。

昭和28年(1953)創業。通天閣の膝下にある。カウンター9席だけ。女将さんによると昔はもっと広くテーブル席もあった。

名物シチューうどん550円。日本で一番あっさり、日本でいちばん好きなうどん降臨。牛肉、玉ねぎ、じゃがいも。出汁は塩だけ。だから麺の旨味がごっつい。大阪うどん=昆布出汁のイメージだが、うどんは麺を味わうもの。塩だけなので牛肉、玉ねぎ、じゃがいもの旨味が助け舟。全進野球。侍ジャパンみたいなシチューうどん。これ最強なり。

うどんの締め。かやく御飯300円、玉子味噌汁150円。初めて食べるのに、子どもの頃に里帰りする味。思い出の味を何倍も美味しくアップデート。次に来たときも必ず。最高の店に出逢えた。やっぱり雨でよかった。

新世界東映

3月5日のメインイベント。大阪に来て新世界東映を素通りすべからず。

『博奕打ち外伝』『けんか空手・極真無頼拳』。2本とも恐ろしくつまらむ。隣の日劇シネマでやっていた日活ロマンポルノを観たらよかった。東映映画は隠れた名作が眠る宝庫だが、ちゃんとジャンクな映画。『博奕打ち外伝』は大爆睡。『けんか空手・極真無頼拳』は大山倍達総帥をはじめ、極真空手の大先輩たちが出演されている。よく極真空手がOKした。空手バカ一代のダイジェスト版。なんで空手道場にライフル銃があるねん。でも観てよかった。映写中、必ず映画が2、3分止まる。映写機が古い。味と闇が深い。これぞ映画体験。

黒門市場

ジャンクな映画を観たらジャンクフードが食べたくなる。ホテルに戻る途中に黒門市場に寄る。誘惑に無抵抗なガンジー人間が来てはいけない。あれもこれも食べたくなる。

火曜日の真昼間(15時)でも活気ムンムン。日本人はほとんど居ない。外国人さんがいっぱい。地元の人によるとコロナ以降、値段が爆上がりして買い物ができなくなった。代わりに日本にお金を落としてくれる外国人市場に変わった。時代は変わる。誘惑を振り切って黒門市場の端っこ「大酒場」へ。

「ホタテ串焼き」「イカ串焼き」両方で1,300円。高い。けど旨い。お金があれば黒門市場は天国。

麺屋丈六

18時、雨。ホテルから徒歩3分。ありがたい。裏なんばの路地裏に麺屋丈六がある。大阪では人気店。カウンター8席、待ち人多し。開店3分前に行くと6番目。

中華そば800円+煮卵200円で野口英世。見た目に反してあっさり。代わりに青ネギのパンチ力がジョージ・フォアマン。スパイスが効いて今風のラーメンな感じ。現代人には受け入れられる。肉増しを頼む人が多かった。

ひとつ言えることは、らーめんにブラックは正義。

21時にアイス

丈六からホテルに戻る途中。店名の「21時にアイス」が秀逸。晩ご飯を食べたあとのデザートがコンセプト。

16時30分オープンの夜アイス専門店。全国に40店舗ほどあるらしい。

22種類の中からノーマル450円を選択。美味すぎる。ミルキーはママの味よりミルキー。白い恋人より恋人。深夜0時まで営業してるから野球観戦の帰りに毎晩買おう。

天平(北新地)

仕事前に10分だけ仮眠しようとしたとき、メッセンジャーのピコンという音。偶然にも今日から大阪入りした恩人の方から。22時40分に映画の仕事が終わる。そこから食事の誘い。梅田へ。帰りはタクシーになる。それでも嬉しい誘い。難波から御堂筋線で梅田へ。ティージョイ梅田で合流し、北新地まで歩いて5分。

昭和30年創業、ひとくち餃子の発祥店。ほんまかいな。「てんぴょう」ではなく「てんぺい」。最初「てんぴょう」だったが、お客さんが「てんぺい」と呼ぶので店の名前が変わった。大阪らしい。時間制限あり。40分。中途半端。価格表示なし。メニューも少ない。

一口餃子。20個入り。多いなと思いやき40個食べた。なんなら、もう1周、60個いけた。白菜・ニラ・豚肉だけ。油を使わない。水だけ。サウナに入ったようなパリッとした餃子。ピリ辛が最高。おやつ感覚でナンボでもイケる。10,900円。900円だけ出し、1万円はご馳走になった。愉しい夜。福島駅でタクシーを拾った。難波まで2400円だった。

DAY2:3月6日(水)

2日目は小雨。昼から晴れるようだ。今日は侍ジャパンvs.欧州代表が京セラドームである。晩ご飯は球場メシなので食いだおれは昼のみ。

ダイニング膳

ホテルから徒歩3分。裏なんばの、さらに路地裏。昨日の「丈六」の隣。ご飯屋さんという呼び方が似合う『ダイニング膳』がある。

メニューは「和」か「洋」の2種類。どちらも900円。素朴のなかの素朴。立命館大学時代は金閣寺の近くで下宿。アパートの1階が学生向けの定食屋さん。量が多く柔道部や相撲部などの食いしん坊ご用達。郷愁に誘われ入店。

観光客のためではなく、地元住民のオアシス。常連さんは「和お願い」「洋ひとつ」「俺は和」の頼み方。その街の顔となる店。

「ササミカツとコロッケ」を指名。きゅうりの漬物、ちょっとピリッとした春菊。やさしさの赤出し。瑞々しい白米。そして懐かしいようなカツとコロッケ。旅先で出逢えると得をした気分になる。

21時にアイス

奈良に住む弟と野球観戦を終えて京セラドームから難波駅に着いたのが23時過ぎ。21時にアイスは0時まで開いている。チェコ代表の選手が良かったので濃厚生チョコ600円。今日は昼に弟が確定申告を代わりにやってくれた。普段は野球を観ないのでチケットを取った理由を訊くと、僕がチケットを取れなかったときのために買ってくれた。売り切れの場合は僕にくれるつもりだったらしい。行動力がある人間は多いが、それは好きなことだから、自分の夢だから好き勝手に動ける。自分以外のために動けることが本当の行動力。人にやさしく。そんな味のソフトクリーム。

DAY3:3月7日(水)

侍ジャパンの打撃練習があるので15時にホテルを出ないといけない。それまでに昨日のレポートをまとめて少しだけ仕事。あまり遠出はできない。朝食はホテルのモーニングセット。昼も徒歩1分以内で探訪。

DININGあじと

大行列ができる「千とせ」の真正面。

純喫茶の雰囲気。人懐っこい人情あふれる和食ダイニング。

奥で二人が調理し、ご主人が接客。

肉巻き玉子。980円。 外はパリパリ、中はトロトロ。タレで煮込んだ黒毛和牛。超極細の箸は玉子の弾力を壊さない。甘くて懐かしい。庶民の味なのにゴージャス。おかわり自由のご飯にタレをかけてゲームセット。 

金龍ラーメン

侍ジャパンの野球観戦のあと23時前。球場でタコ焼きしか食べていないので猛烈に腹が減った。金龍ラーメンの明かりに吸い込まれる。

800円。キムチや紅生姜など何も入れない。シンプルなラーメン。技巧を凝らしたラーメンと違ってインスタント感がある。最後の晩餐。肩肘はりたくない。深夜ラーメンはこんな感じがいい。

21時にアイス

まだまだ腹が減っている。清風学園のとき何度も食べた『亀王』でラーメンはしごをしようかと思ったが最後のスイーツへ。3日間の締め。やっぱりノーマルが一番。帰る場所。

DAY4:3月8日(木)

食いだおれ最終日。千日前は曇り。

まだ人も眠っている。千日前は路地裏の街。ステキな飲食店の四面楚歌。路地裏に聖者が住む街。

喫茶アドリア

ホテルで同じメニューの朝食がついているが最後の朝は美しく始める。

モーニング珈琲、トースト&ゆで卵。450円。常連さんがスポーツ新聞をめくる音、わずかに聴こえる有線のクラシック音楽、シャンデリアの淡い光も音楽に見えてくる時間。

道頓堀に行かなかった食いだおれ白書。真冬の寒さだった啓蟄の千日前。あったかさが沁みた。人情が沁みた。春よ来いと願いながら、次の食いだおれへ。

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