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memex - Dear Thinking Nodes について

先日データ版がリリースされた物をiTunes Storeで買ってそれで聞いたりSpotifyでストリーミングしたりした。

いやいいものを聞かせてもらった。なぜこのアルバムが僕を刺すような趣向の者であったのだろうか。

感想

1. ヴォーカリストの声質と表現手法、歌い上げるメロディのラインが非常に秀逸に感じられた。高いメロディラインとファルセットの多用にかかわらずミステイク的なか細さを感じることなくアルバムを聞き終えた。この趣向のサウンドでこうした芯の強い、出力も強い方向性の声色がここまであうと思っていなかったので意外だ。

2. 僕がこの作品に打ちのめされる個人的な理由としては、2008年前後から2010年代の前半にかけて、日本のロックミュージックシーンでは複雑なビートの情報量の多い、一定水準のインテリジェンスを聴き手に要求するタイプのバンド音楽が爆発的に流行していたとのこと。僕はその音楽を2015年から2017年ごろにかけて熱心に聞いていたので、こういうサウンドに反応してしまう体質となっていた。この趣向の音楽を拝聴するにあたって僕を確実に刺すような「キメ」を悉く魅せてくれていた。そうしてくれていたし、加えてその流れを受けて、様々な非バンドサウンド的音色を湛えていくその絡め方が非常にシナジェティックに受け取れる者であった。これは次の感想ポイントにも関わるけれども。

3.(厳密にはVTuberではないそうであるものの)VRCを利用しアバターを持って仮想的ないし実質的空間上でライブパフォーマンスを行うような存在に彼らはなっている。このことによって、収録曲中に散りばめられているキーボード、同期等の非バンドサウンドの挿入に関する正統性蓋然性をより強く確信させ、それら音色を導入するにあたってのV的物語への想像力を多分に駆動させ得るそれとなった。

4. 全体を通して聴いても、あこれノイズあるなとか、楽器の間の音量バランス良くねぇなとかそういうことを思わずに聞き進められた。まあこれは音楽の本質ではないのだろうけども。



各楽曲聴取メモ

M1. Secret Protocol
歌詞なしのG#3とB4のコーラスを基調とし、歌声のみからマスロック的な8分のピアノが加わり、単音のクリーンによるギターリフが加わって、リズムの中心が歪みの強いギターと激しいビートへと変わっていく。一瞬半音上がったキーの和音になる。
全体にわたる基調の同じはずの和声が綺麗な和音を構成したり緊張感のある和音を構成したりと変わるのが面白い。

M2. Phantom Destination
ウッドベースによる始まり。キーボードによる不協和音的な和音と不穏な感じのするメロディ運び。
メインコーラスの音域が非常に高いが、その際のファルセットが非常にきれいだ。
verse 2 のリズム展開の変化のさせ方が目まぐるしい。
ラストのメインコーラスは転調。A#5をこんなに衰えなしで芯ある声でファルセットで出せるのすごすぎ。

M3. Breathing Trigger
俺的このアルバムの最も推し出したい一曲
8bitサウンドと歌のフィルインによるverse 1, 単音クリーンギターによる入りのverse 2
main chorusのⅦからⅠによる始まり方と一気に音を広げていく感じが俺を刺した。このメロディラインで俺独自の境界条件を原因とし飯が三杯食える
ロック、非ロックなもの、それぞれの曲展開ごとの音色の選び方が秀逸。

00年代末的ポストマスサウンドと情報科学事項周辺のV的物語への想像を接続させる曲作だ。

M4. Volatile Memories
一転静かにキーボードと同期と協和音的なメロディによる歌から始まる。
進むごとに靴を見ているようなギターが加わる。

M5. Influence Exception
先ほどが閑話休題であったように高速なBPM。D開放の重たく聞こえるリフとクリーンクランチの対比がある音楽を昔好きだった俺の血を擽る。
main chorus前のメガホンエフェクトや不協和音が多く入った進行が電流はしらせる。

全く細くないファルセットからのG4などのハイトーンのメロディに言葉を失う
verse 3のコーラスワークこれすき。

M6. Recursive Dolls
先行リリース曲。Fuzzyなギターの絡むシャッフルビート高速のジャズな雰囲気有る曲。この曲もファルセット入り混じる高音域のmain chorusの歌い上げがしびれる。

・・・なんだそのA#5は・・・。

・02:03 「はっ」←これかわいい
・歌終わり前のクレッシェンド半端ねぇな。

M7. Permitted Lives
ボルテージを一旦休ませるようなバラード。それにしてもこのファルセットと高音域にしてほんとうにビブラートが繊細で美しいですよねこれ。
このサウンドメイキングからのC#M keyとmain chorusに弱いんだったわ俺は。同期音の絡め方も素敵だ。

M8. Redundant Configuration
このアルバムもう一つの一押し曲。
弱めなコーラスが通底している、曲初めのクリーンの単音リフと120bpmの16ビートが冴える。途中の三連符がマジセコい。これはいかん。
main chorusの自身の声質への解像度の高いA#4とC#4、F#4のメロディの振り方、フィルイン部のG#4への持って行き方。これがなんとも感慨溢れる。
verse 2の畳み掛けるような展開とそれのmain chorus前のいったん静かになってからテンションを上げていく展開がほんとうに好きだ。
後半のmain chorusの静かになるところも同じくな。

M9. Cloud Identifier
アルバムラストにしてmemexの客観上の原点であろう一曲。
クリーンクランチのマス的ギター演奏からのメロディラインとその歌い上げの美しさは言わずもがな。
・verseがCm keyなのにmain chorusがC Maj keyなんだ・・・
ラストのmain chorusの転調からそれまでと違うメロディー、そしてシングアロング。これで滾らん奴は居らんのじゃねぇのか?

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歌詞についての考察をするのが苦手であるがゆえに意図的に回避した文述であることをお赦し頂きたい。

あまり適切な言葉の選び方を出来なさそうであるものの、

この作品を、彼らがいろいろな活動形態の中でこれを出し得る可能性があった中で、彼らがアバター在りでVRC活動下という枠組みの存在としてリリースしてくれたことに、このアバター、仮想存在などの概念との化学反応という条件のもとにリリースしてくれたことに感謝したいと思えた。