女子サッカーは既に選手自身が体格差問題に取り組んでいる

日本女子代表のベスト16敗退はランキング7位からしても違和感はなくむしろ欧州チャンピオンオランダに善戦したという評価が妥当だと思う。
敗退後、高倉麻子監督、安藤梢選手からフィジカルの改善を敗因とする弁が飛び出し、一部で議論を呼んでいる。二人のフィジカルの定義は内容を読むと異なっていて、高倉監督は体格差、安藤選手はデュエルの強さと定義しているようだ。まあ、結局は体のデカイ選手に玉際で勝てないことを問題としているのは同じなので、その観点から考えたい。
猶本光という選手がいる。浦和レッズレディースからドイツのフライブルクへ昨年移籍した。代表の常連だった。私にはレッズ時代の彼女のプレーが気にくわない点はすぐ倒れることだった。シミュレーションぽい倒れ方も少なくなくレフェリーも猶本が倒れたから笛吹こうという場面も多々あり、このままじゃ猶本は成長が止まるな、と思っていた。ところが昨年海外移籍を志願しドイツに渡った。安藤梢選手のアドバイスが後押ししたのだろうが、彼女自身も自分の問題に気づいていたことが嬉しかった。彼女のフライブルクでのプレーを見る機会はなかったが、ワールドカップ前のテストマッチに彼女は途中出場した。そこには以前のすぐ寝る彼女はなく、自分よりも20センチ大きい相手とのデュエルで二人とも倒れながらいち早く立ち上がりボールを奪取するギアがワンステップ上がった猶本がいた。これでワールドカップのボランチは猶本に任せられると喜んだことも束の間、猶本はメンバーから選外となった。更にトレーニングパートナーの指名を受けるという死体に鞭打つような仕打ちも受けた。ボランチは倒れてはならない、試合中死ぬことがあっても立って死ね、なぜなら攻めでも守りでも先頭に立つ、ゲームの流れの先頭に立つのはボランチなのだ、そういう指導を受け、指導をしてきた私の目線では、選出されたボランチが猶本よりフィジカルで優れているとは思えなかった。
(私は猶本光の盲目的なファンではない。ジェフレディースのファンであり、ジェフレッズ戦では倒れて起き上がらない猶本をスタンドから再三叱責したものである。なので、猶本選外についての意見には私情はそれほどないはずである。ただ、私の贔屓のジェフレディースの小澤寛選手と二人で映っている写真にサインが欲しい。小澤選手からはいただき済み)

猶本を例にあげたが、自分の課題をデカイ相手に押されても掴まれても倒れない強さを身に付けることとして化けた選手はたくさんいる。ジェフサポなのでうちの選手を例に出すと鴨川実歩。彼女も去年の今頃までは倒れてばかりの選手だったが去年のリーグ後半から変わった。相手を背負っているところに平気でボールを要求し剥がしきる強さが身に付いた。彼女も157センチしかないが170ある相手DFを背負ってもびくともしない体幹を身に付けた。

敗戦の弁でフィジカルを語るのは、選手選考の基準が間違っていた、つまり勝つための戦術が間違っていたことにほかならない。フィジカルで世界に互せる選手はたくさんいたのだ。

日本女子サッカーは高い技術と早いパスワークを標榜してきた。言って見れば体格差があっても相手に触らせなければいいという戦術である。時代は変わって今は全員に守備タスクが課せられている。相手に触らない守備はあり得ない。

今の女子アカデミーの選手は中学生時代から自身より大きな大学生や社会人と真剣勝負のリーグ戦を戦っている。今の代表が育成年代の時に得られなかった経験だ。自分より速く、デカイ相手を抑えるため、どうしたらいいか、苦い経験を積み重ねながら彼女たちは考えている。鳥海由佳選手はベレーザから今は十文字juvents,148センチである。が、彼女のショルダーチャージは私が女子サッカーで見た中で最高の技術である。ボールホルダーに対し彼女は低く強く弾丸のようなチャージを食らわす。ぐらつき一歩下がったところをボール奪取する。彼女はFWで常に自分より大きな相手と戦いそのような技術を身に付けた。

以上のように選手は、地道にそういう問題に取り組んでいるし、すでに世界のトップリーグで戦っている永里、川澄はそういう問題を克服した選手であるのに代表には選出されない。育成からトップレベルまで戦っている選手たちのフィジカル差を埋める問題意識と努力が、コーチ、協会の意識とがこんなにもずれが生じていることが最大の問題ではないかと思うと残念でならない。

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