サッカー日本女子代表 世界一の条件~ 変化の先頭に立つ1

チームスポーツでは偶発的に世界一になることはあり得ないというのが私の持論だ。まず、ライバルチームの分析をしなくてはいけない。そしてそれぞれのライバルチームに勝つための戦術を策定しなければならない。そして戦術におけるタスクを達成できる選手を選び戦術を磨く必要がある。ライバルチームも同じプロセスでチームを作り上げる。その中でこういうプロセスを経ず世界一になる偶然など入り込む余地はないと考える。

日本ではじめてチームスポーツ世界一を達成したのはバレーボールである。女子監督の大松博文は選手に、私達より練習しているチームなど世界にあるはずがない、という自負を植え付けた。バレーボールでは致命的な身長差を克服するため回転レシーブという技術を身に付けさせソ連のアタッカーを辟易させるほど拾いまくった。
男子バレーボールで世界一になった監督松平康隆は大松とは全く違うプランを練った。すなわち相手が平均身長190センチなら日本も190センチでなければ戦えない、8ヶ年計画の目標であるミュンヘン五輪のチームは平均身長190センチのチームを作る、と宣言した。東京五輪のチーム平均身長は180センチ程度だった時代だ。松平はクレイジーと言われた。松平は190センチを越える青年がいると聞くとどんな山奥でも会いに行ったそうだ。著書で「190センチ以上あるなら片輪でも欲しいと思っていた」と述べている。その中から横田、大古、森田などの世界のエースの原石が発掘された。
またライバル国のリサーチも徹底的に行った。今のライバル国監督の協会内の地位から生い立ちまで徹底的に調べミュンヘンを率いるのはこの男かどうか見極めた。そこから始め、ライバル国がミュンヘンでどんな戦術を取るのか予測した。情報の乏しい時代、まして当時の共産圏の情報を収集するのは想像を絶することだが松平はそれらをやりとげた。

戦術面では、日本人の特性から時間差攻撃を編み出した。犠牲を厭わない日本人にしかできないものとして練り上げた戦術だが、今は世界のどのチームも使う戦術だ。

私は松平康隆を世界ではじめてオーガナイザー、タクティシャン、スカウト、モチベーター、レポーター全てを執行した監督として尊敬する。加えて彼はテレビ中継の解説を買って出ただけでなく、バレーボール中継放映のテレビ局への売り込み、スポンサー探しまでやっていたのだから感服してしまう。その結果バレーボールブームが起き少年マガジンの表紙になり少女雑誌のグラビアを飾った。

時代が違うのを承知で引き合いに出したが、グアルディオラやモウリーニョ、そしてユルゲンクロップも松平に近い資質を持っていると思う。私は日本女子代表監督に松平と同じようにやることを期待しているのではない。ただ、高倉監督のメディアへの発言から、アメリカやフランスにどうやって勝つのかのヴィジョンが全く見いだせなかった。モダンサッカーでは、ビルトアップや守備については細部までデザインされていることが当たり前であり、フィルネヴィル率いるイングランドは実に明確なデザインをピッチ上に体現している。どのチームも規律があり、相手から時間とスペースを奪い、自分たちが時間とスペースを獲得することを目指している。時間とスペースとは自由という言葉に置き換えられる。相手を自由にさせない、自分たちは自由にプレーする。そして、自由の奪い合いを制したチームが覇者となる。

日本女子サッカー界をリードしてきた日テレ・ベレーザ。今回のワールドカップにも9人の選手が選ばれた。その特徴をパス回し、ドリブルの鋭さ、フェイントの多彩さなど表面的な華麗さでとらえられ勝ちだが、ベレーザのサッカーの本質はそこにはないと思っていて、日本代表がコアとして据えるべき戦術観はそこにあると考えている。

次回で私観を詳説したい。

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