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蓮の間に俺おるのが、見えるかお釈迦様?

芥川龍之介

ある日の事でございます。御釈迦様おしゃかさまは極楽の蓮池はすいけのふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

池の中に咲いている蓮はすの花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色きんいろの蕊ずいからは、何とも云えない好よい匂においが、絶間たえまなくあたりへ溢あふれて居ります。

極楽は丁度朝なのでございましょう。
 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇おたたずみになって、水の面おもてを蔽おおっている蓮の葉の間から、ふと下の容子ようすを御覧になりました。

この極楽の蓮池の下は、丁度地獄じごくの底に当って居りますから、水晶すいしようのような水を透き徹して、三途さんずの河や針の山の景色が、丁度覗のぞき眼鏡めがねを見るように、はっきりと見えるのでございます。
 するとその地獄の底に、かんだたと云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢うごめいている姿が、御眼に止まりました。

罪人ではないが蠢くものたちの中で俺だけは特別で

いつか糸がおろされ

おれだけはうまくここから逃げおうせると思っている。

逃げてどこに行くか決めていない。

ゆうメンタルクリニックの新宿院に℡してみようとしている。