「CMYK」のKはKeyplateだかどうだか分からないけど、CMYKの色はBLでもBkでも墨でも良いのだ。

記事内容は、
・CMYKという略語のKはKeyPlateでもいいよ
・でも、シアン、マゼンタ、イエロー、と来たらブラックだよ
・Keyplateなんてインキも色も無いよ
・印刷工場で墨版をキープレートなんて言わないよ
です。


DTP Advent Calendar 2018
の4日目の記事に登録。普段は『やもめも』で書いてます(ちなみに著者紹介ページ)。小ネタだしnoteいいかなって( ‘ㅂ’) 


ゆっくり調べていることの経過報告です。もうページが無いんですが、某blogに

CMYKのKはKey plateのKでそもそもblackとは関係ないんだよ。
適当な事言ってんじゃねぇ。

とかイキってるコメント付いてるのを見てしまったりすることがあり、すっごい違和感あって2012年あたりからちょこちょこヒマなときに出かけては少しずつ資料漁ってます。まだまだいろいろ足りないので、「かも」や「思う」が多いです。あと材料をどさっとそのまま提示したりします。

結論は無いし、グダグダな感じなのでお急ぎの方はスルー推奨。

以下は今考えていること、として読んでね。でモヤモヤするがいいさ!(酷

そもそもKeyPlateってなんぞ?

「CMYKは、Cyan、Magenta、Yellow、Keyplate」と書いてあるのよく見かけます。色の並びに何しれっと入ってきてるんだよKeyplate。なにもんだ。

というわけで「そもそも」をいろいろ調べた結果、Keyplateには色、あんま関係無いことが分かりました。これは、そもそもの元として確定していいでしょう。下図で説明します。

上では、Keyplateの線の要素は製品に一切表れていませんね。このように元は、版を手で起こす木版等の

印刷されない、製版処理上必要な中間生成物としての版

をKey plateといいます(確定)。

印刷版を作るために必要な要素を線画で起こし、それを複製、各版に貼り付けて、必要な要素を正確な位置に掘るためのアタリを作る版。掘るためのアタリですから、何色でも別に構わないんですが、見やすく、かつコストを抑えるには墨で刷ることが多かったでしょう。

また、木版などで印刷時に、紙端を当てて正確な印刷位置を出すための切欠や小片をKey、と言います。日本語だと見当と言いますが、Keyplateを介した版作成も精度を出すために必然の仕組みであり、keyplate=見当を出すためのもの、という意味も付いてきただろうと思います……が、この見当についてですが、これは版作成のための見当であって、「(製品になる媒体に)最初に印刷して他の版の見当を合わせるための墨版」という説明はどうかなぁと。印刷の見当合わせのシステムは他にきちんとあるし、オフや木版でも色刷りを先にすることもあります。手刷りであっても、さすがに絵柄見当のみで生産しているはずがないでしょう。先に挙げた、他の版を作る精度を出すKeyplateの概念を間違って導入したもの、と考えます。…間違いというか、言葉の根拠として説明するには非常に弱いし、たぶんズレてるなぁ、といった感じ。

いつこうなった?本当に使ってた?

さて……オフセットや、オフセット以前の原色版・石版などを含めた多色分解をしていた製版・印刷現場において、いつ、墨版=Keyplate、と別名でも呼ぶようになったのか…って変遷がまだよく分かりません。そもそもこれ、中間生成物であってこれを利用して印刷版を墨でシメるには、そのままでは絵柄的に使用できないし、最初から「墨版」として、刷るためのものとして作るしかないんですよね。

また、現場って言葉をどんどん簡略化する傾向があります。Blackで済むものをKey Plateなんて言ってたか、どうか。現場で使ってた言葉なのか、外から解説した理論書等でなく現場で墨をKey云々言ってたかどうかはかなり疑わしいなぁ、と思ってます。Key=墨、という強い結びつけかたをしてたのか?という疑い。

思ってます……が多いんですがw なんなら、Key plateに関してまじめに論議してるまとめ見ると面白いかと。「Key plateと言う」について論拠を示している記事がなく、皆さんがもやもやする様が大変共感できます。

『【印刷用語】CMYKのKって何?【四色分解】 - Togetter』

各色を表す時に「Keyplate」を使っていない

略語なのですから、CMYKはCyan,Magenta,Yellow,Keyplateの略だよ、というのであれば、著名なアプリのUIで各色を表示するときそのように表記するはずです。ですよね。
しかし、ブラックをKeyplateと書いたものは見たことがありません。あるのかな?

まとめ中にもありますが、フランス語版のソフトウェアだとUIにRGB=RVB(Rouge, vert, bleu)、CMYK=CMJN(Cyan,Magenta,Jaune,Noir)とあったりします。全部色名で並べてますね。フランス版アドビのサイトでもCMJN表記してます。下は一例ですが、表記そのままを略してCMJN、分かりやすい。

InDesign CS5 pour PC/Mac - Créer un dégradé』より

なんでも独自にやりたがる国のことなんで例に挙げるのは不適当かもしれませんけども。

日本でも、プロセス4色分解の場合はCMYBL、藍赤黄墨、CMYBk、CMYBと書きました。BLはBLack、BkはBlacKです。製版・印刷現場で本当にKeyを墨とイコールで使っていたか……には、元々現場にいた人間としては、国内でも、国外でも使っていたのか…かなり眉唾な感じに見えています。
もし現場でこの単語が出たとしたら、
「レジスターマークだけじゃなく内の絵柄でも見当見ような!(英語)ほら、ブラックと合わせると分かりやすいだろう?まさにKey(見当)だね!(英語)」
てな、本筋と関係無いようなところだったのかも。

ちなみに:下はS40以前の4色インキ見本。かなり自由に組み合わせていることがわかります。1960年代は3色標準インキをインキの工業組合が策定・標準環境光の制定など、印刷の標準化についてみんな考えだしてきた時代ですが、当然CMYKなんて略語はカケラもありません。

他の国では、

ドイツ:Cyan, Magenta, Gelb, Schwarz
スペイン:Cian, Magenta, Amarillo, Negro
中国:青色, 洋紅色(品紅色),黃色,黑色:Wikiには興味深い記述があります→「KはKey Colorでなければならないことを説明する文献があるが、実際には製版に使用される位置決めプレートの概念と混同されている。 ここでの略語は、Bが全体のクロマトグラムにおいてRGB青色を与えられているので、開始Bの代わりに最後の文字Kを使用する」

そのままKeyと書いている所も多いのですが、おそらく英語圏で、BLやBkではない「完璧な略語」が必要になったときにCMYBでは不都合がある、と誰かが考え、

・blacKを採用したよ
・blacKじゃみっともない気がするからなんか、気の利いた似た言葉……あ、Keyplateっていいね!採用!

のどちらかじゃないかなぁ……という気がすんごくするんですが、どうでしょう?

略語のCMYKの「K」って、なんだか言い訳っぽい、なんとかしちゃったっぽい、うまいこといいやがったっぽい感じがしませんか。案外、こんなところじゃないかなぁと思います。

(あと、Wikipediaって誰でも編集できるので論拠として非常に弱いですよ)

CMYKという「略語」を誰が作ったのか?

狭い観測範囲では、日本語の印刷関連の紙文献で「CMYK」または「YMCK」という並びの単語が出てきたのは、DTP普及以降です。それ以前、少なくとも、1985年以前の資料では見つけることができませんでした。また2010年以前のCMYKについて書いている日本語の文献で、「K=Key plate」と説明しているものも見つけられませんでした。

英語の印刷関連の文献でも、DTP以前で「CMYK」と並べて表記しているものが見つかりません。すらすら読める語力がないので単語を探すだけですが、どうにもこの略語、DTPアプリケーションと近い関係にあるのではないか……?という疑いが捨てきれないままです。つまり、アプリケーションメーカーがこの並びで作ったのではないか…?という。戯れ言ですが、略語「CMYK」が一気に普及したのはアプリのUIにそう書いてあったから、という考えはそう外れてはいないと思います。
※ もちろん、せいぜい紙でも200冊ちょいしか目通してませんから、かなり狭い範囲でしか調査できていません。

略語のKの語源と、それがあらわすものは違っていい

たぶんこれが一番言いたいこと……かな。

CMYKのKはKey Plate(Key Color)の略! というのはたぶん、半分は正解と言っていいと思います。ただ同時にblacKのK、というのも正解だと思う。

でも、これは略語の語源は何か、という話です。見てきたように語源も説明もまとまっていないうちに「Key!」と叫んじゃうのはどうにもむずむずする。この「略語」を考えた経緯がどうにもアレな気がするし。

C、M、Y、Kの指し示すものは、藍(Cyan、Cian、青色、Ciano、голубым)、等、4色プロセスインキのカラーを示すので、略語の語源としてのKの説明はおいといて、CMYK=Cyan、Magenta、Yellow、Black、藍、紅、黄、墨……という説明は全く間違っていません。Blackでいいんです。堂々と説明しましょう。

言葉はもやもやするもの

さて、まとめられないのにまとめます。

Key plateという言葉はあるし、印刷用語でもあるが、CMYKのKのルーツの根拠・出典は未だ示されたものを見つけていない。たぶん、誰かが苦慮の末ひねり出した「略語」なんじゃないかな? BlackのKでも、KeyのKでもどちらでもいい、ってくらいあんまり考えてなかったんじゃ?

別にどっちでも構わないとは思います。印刷に限らず、何かを示す言葉って、組織や、その中のレイヤーによってそれぞれの文化でだいぶ違うのです。そして、組織やレイヤーは無数に細かくあり、どの文化の言葉がいきなり広まるのかは偶然の要素も多分に含み、「正解」って特にないんじゃないかと。

例えば、しょっちゅう言ってますが「金赤」という言葉が示す色は、デザイン寄りか、印刷寄りかで結構違います。MY100%の赤だったり、黄色みの強い赤だったり。ちなみにJISだと後者ですけどね。で、この文化の違いは、もう何十年も歩み寄ったりしていません。ずーっと印刷では金赤インキの色をキンアカといい、デザイン側ではMY100の赤をキンアカと言っています。ずっともやもやしたままなんですね。

でもそんなもんなんじゃないですかね。言葉がどう作られて、どう世間を渡り歩くのか、って。

などと考えているので、「CMYKのKはKeyplateだよバーカ!」みたいなよくわかんないマウントしてるの見るとすっごい違和感感じるのです。


ただ、どっちでも構わないとは言いましたが、調べて掘るのがちょっと楽しいので、機会あるごとに調べるつもりです。

2018年の経過報告は以上です( ‘ㅂ’)

DTP Advent Calendar 2018、他にはこんなにぐだっとしていない結構な記事が並んでいます。こちらもぜひ。


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