見出し画像

番外編:「牛首紬(うしくびつむぎ)」江戸時代から継承された伝統を守り抜く

パタパタと規則的な音が心地よく聞こえるこの場所は、「牛首紬(うしくびつむぎ)」を作る「加藤手織り牛首つむぎ」。

機織り機からくり出される音を聞いていると、ここで、新しいものが生まれるにちがいないという予感に胸が踊る。「牛首紬(うしくびつむぎ)」とは、石川県の白山の麓で昔から伝承されている紬織物のことを指し、その歴史は古い。
「加藤手織り牛首つむぎ」は、全国の織物産業の中でも珍しいとされる、製糸、織り、出荷までの全工程の作業を一貫して担っている。この伝統文化を守るため、後継者となった加藤さんに、牛首紬ができるまでの工程の一部を教わった。

牛首紬の工程を説明する加藤さん。

プロフィール
加藤さん。「加藤手織牛首つむぎ」の後継者。60歳まで金沢市内の県立高校で体育教員をしていた。化学繊維の台頭で、祖母の代で一度途絶えた牛首紬。「受け継がれてきた技術と想いを、永遠に守り抜く」その想いから10年前より、牛首紬の後継者として伝統を守り続けている。

白峰が誇る伝統文化、牛首紬

牛首紬の伝統を引き継ぐ

「牛首紬」という聞きなれない不思議な名前の由来は、生産地である白峰の旧地名(牛首村)からきているそう。

古くから養蚕業が盛んだった白峰で作られる「牛首紬」は、紬と絹の特性を併せ持っているとされ、肌馴染みがよいと評判をよび、村民の晴れ着などに多く利用されてきた。

牛首紬の原料は、蚕が作る繭。繭には、1頭で作る「単繭」と2頭以上で作る「玉繭」がある。一般的なやり方は「単繭」を用いて、糸を引き紡ぐ方法。数本の糸を※撚り(より)、その撚り糸をさらに数本束ねて1本の糸を作っていく。(※糸をねじること)


一方、白峰の牛首紬は「玉繭」を用いる。この玉繭から引き出される糸の数は、約80本。その細い糸を一度に撚って、糸を作りだすのだ。

「玉繭」は、2頭の蚕が吐いた糸が不規則に重なりあうため、糸を引くのが難しく、職人の熟練した技術を要する。この技法は、全国でも白峰でしか実行されておらず、引き継がれていない特別なやり方だ。

当日の取材時、ぐつぐつと沸騰する湯の中に入れられた蚕は、小刻みにリズムを取るかのように浮いていた。湯の中には、無数の蚕。その蚕から、丁寧に糸を紡ぐ職人さんの手さばきは、軽やかで迷いがない。

蚕が吐き出す糸は、縫い糸よりも細く、頑丈だ。「あまりにも頑丈だから、作業中に指が傷つくこともあるくらいだよ」とにこやかに話す職人さんの手は、長く触れたお湯の影響からか、ふやけていた。


「これが、職人の仕事」。カラカラと糸を巻きつけていく、製糸機の音を聞きながら、日本の織物の歴史は彼女たちが作ったのだと実感し、鳥肌がたった。

この道20年~30年のベテラン職人が「玉繭」から糸を引き出す


加藤手織牛首つむぎでは、2名の職人が製糸を担う

写真で見る、牛首紬が紡がれる過程の一部

繭からほぐし出た生糸はとても細く、そのままでは糸としては使えないため、糸に撚り(より)をかける。

糸に糊付けし、表面を滑らかにする。
糸を整えて、生地の状態に。

以前より、白峰で使われる機織りを使用。昔ながらの製法で生地をつくる

伝統を違った形でも

牛首つむぎで作成したがま口(引用元:【公式】加藤手織牛首つむぎホームページ


牛首つむぎで作成したがま口(引用元:【公式】加藤手織牛首つむぎホームページ


職人の熟練した技術を用いると、蚕からでた糸がここまで変貌を遂げるのだ。

「加藤手織牛首つむぎ」では、反物のほか、バッグやがま口などの製品も販売している。時代の変化に伴い、形を変えて少しづつ進化していく、牛首紬。

江戸時代から続く伝統を、手軽に楽しみながら、手に取って欲しい。そんな加藤さんの想いを感じる。

お土産屋さんでも購入できる

編集後記


この伝統を、未来に繋いでいくために、消費者としてどんな関わり方ができるだろうか。そして、今まで自分はどんな関わりをしてきただろうかと、「加藤手織牛首つむぎ」でみた、織物が作られる工程を思い浮かべながら、振り返ってみた。

つい最近買った、ダウンコートはどんな基準で選んだっけ。そもそも、私が商品を選ぶ判断材料はなんだろうか。理由を考えてみたとき、思いついたものは、見た目がかわいい。値段が安い。なんとなく肌触りがいい。など表面的なものばかりだった。

「なんて単純なのだろうか」自分の購買行動を振り返りながら、思わず俯いた。

よくよく考えれば、私たちが普段、身に纏っている服、小物それぞれに紡がれた物語があり、そこには、作り手の想いが丁寧に込められている。しかし、目の前で物が生み出される過程を見るまでは、その当たり前に気付くことすらできない。これが、灯台下暗しなのだろうか……。

この取材を通して私が学んだことは、消費者として商品を選ぶ目を養うことの大切さだ。生産者や職人がどんな想いでこの商品を作っているかを知り、ものが作られる過程の中で、共感できるものや応援したいものを、消費者の私たちが選び取る。

その小さな行動ひとつひとつが、伝統を紡ぐきっかけのひとつになるように思う。

「どんな想いが込められたものを、身につけたい?」。これから商品を買う時には、自分に問いかけながら、お気に入りのものを選んでいきたい。


加藤手織り牛首つむぎ ホームページ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?