サークル棟に神さまが棲んでいる。P.036(連載小説)


四月下旬~五月上旬——サークル合同交流行事において (十三)


 大学の最寄り駅より一駅のところから、人工島を走るモノレールに乗り換えて更に三駅、そこから歩いて十分の場所に、広々としたグラウンドが設けられています。私たちの通う大学が所有する施設です。普段であれば、学校から無料の送迎バスが出るのですが、今日はゴールデンウィークの二日目、日曜日なので、運休です。
 グラウンドには体育館も併設されており、運動系のサークルが利用したり、授業で使用されたりします。本日のように、暇を持て余す学生が届けを出して、一日貸し切りにすることもできます。
 目の覚めるような、青々とした晴天です。半袖でもぜんぜん平気な陽気です。すぐ近くの海から吹いてくる風は、とても穏やかです。運動日和だ。
 私はこのグラウンドへ、授業で二度だけ訪れたことがあります。百メートル以上先に並ぶ、端のフェンスが霞んで見えました。ですが、今日は見えません。それに、かなり狭く感じます。
 サークルに所属する大勢の学生たちが集結しているからです。約一五〇の団体全て、ではなく、一〇〇団体前後が来ているらしいです。学生も全員が参加しているのではないでしょうが、七〇〇~八〇〇人くらいはいると思います。
 整列してません。適当に固まってがやがやとお喋りをしています。スパッツを履いた痩せぎすの男性がストレッチをしています。日傘を差して談笑している女性たちは、運動する気力がゼロです。桜の花びらが付着しているレジャーシートを広げてる者がいます。座り込んでニンテンドーDSに興じている小学生のような大学生がいます。即席の屋台を出店している学生もいます。と思ったらその人は学生ではなく、この近くのコンビニから出張して来たおじさんでした。
 ちらりほらりと、「運の生き物」の姿も見受けられます。車両に用いるマフラーを装備しているラクダとか、ボクシンググローブを嵌めているコモドオオトカゲとか、釣竿を背負っている大きめのクラゲであるとか。全ての「運の生き物」が、イベントに無関心というわけではないようです。
 お祭り好きなウチの猫もご機嫌です。この会場に着いてすぐ、猫は私の腕から飛び降りて、たたたっと駆けて行き、他の「運の生き物」たちとハイタッチをして回りました。
「「運の生き物」同士で交流とかするんですね」
「うむ。たまにサークル棟の前で、だるまさんが転んだをしていたりするよ」
 だるまさんが転んだて。
 一応、私たち二人は随想愛好会悠々というサークルに属する学生です。私は仮入部の身ですけど。なのですが、イベントには参加しません。騒々しい学生たちから少し離れたところに、折り畳みの椅子に腰を下ろして傍観を決め込んでいます。この椅子はアウトドアサークル外出から貰ったそうです。
「僕らがお食事券とタレを勝ち取ってしまうと、申し訳ないからね。はははっ」
「独りで焼き肉を食べるのが寂しいんですね」
「僕は別に、独りは怖くないさ」
「それで、淀八森先輩」
 私は大学生の群れから目を逸らし、淀八森八回生の傍らに寝転んでいる、甚兵衛を羽織ったブタを見下ろします。ぶぅぶぅと地べたで寝ています。私はまだ、この「運の生き物」が起き上がった姿を、目にしたことがありません。ただのブタすぎます。
「そのブタ、どうするんですか。この前よりもやる気なさそうに見えますけど」
「新苗さん、分かるのかい? 機嫌を窺うのが、板に就いてきたようだね」
「見たら分かりますって。わざとらしく持ち上げるのやめて下さい。ムカつきます」
「愚痴を言って、君の心が軽くなるのなら、僕にも生きてる甲斐があるってもんだ」
「生き甲斐の感じ方、歪んでますよ。ぐにゃっと」
 さて。
 書道サークル英墨会、その「運の生き物」であるブタのお世話について。
 あからさまに、わざとらしいほどに、淀八森八回生がブタに関して何度か、煩わしそうな態度を取っていたので、なんとなく私は感付いていました。
 ご機嫌状態にする方法が、かなり厄介だったのです。

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森川秀樹

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