情報リテラシー論 其ノ捌

001 (土岐 晴人の場合)

「晴人先輩、交差点の信号が全て赤になる瞬間があるのをご存知ですか?」

 である。

「なんだそりゃ。業者さんに点検でもされる時か?」

「いやいやもっと頻繁にあるんですよーーー晴人先輩だって毎日のように見ているはずです」

「毎日のように・・・いや、そんなものを見た覚えはねーぞ。つーかそんな現象が日常的に起きていたら、あちこち交通事故で大変だぜ」

「あちこち交通事故で大変にしないために、そんな現象を日常的に起こしているんですよ。わかっていませんねえ、この愚か者は。いやいや、種を明かせば簡単な話なんです、晴人先輩。縦の信号が赤になってから、横の信号が青になるまでの間に、どの信号にも必ず三秒のタイムラグがあるんですよ。同時に変えたら、あわてんぼうの運転手さんが先走ったときに、交通事故が起こる可能性が高くなってしまいますからね」

「三秒・・・瞬間じゃねえじゃねえか。三秒単位で瞬きするやつなんていねえよ」

「挙げ足を取らないでくださいよ、性格が最悪ですねえ晴人先輩。つまり全てが静止する、交差点における空白の三秒間と言ったところですーーー逆に信号が全て青になる瞬間なんてものはありません。それこそ業者さんのチェックでもない限りは。私が設計者なら、構造上そんなことができないようにシステムを組み上げるでしょうね。誰だって危険よりは安全のほうがいいでしょう」

「そんなの当たり前だろ。改まっていうようなことじゃねえ」