情報リテラシー論 その拾

「平和な国で馬鹿みてーに生きる権利って奴が、人間にはあると思うがね。そのために数千年かけて進歩してきたんだろうが」

「それは日本独自の考え方ですよ。この国における宗教と言ってもいいでしょうね。断言してもいいですけれど、日本なんて国は千年後、存在してないと思いますよ」

「そんなもんどこの国でも同じだろ。同じ体制で千年持つ国なんかねーよ。歴史の教科書を読むまでもない、当たり前のことだ」

「そう、当たり前のことです。日本は滅びるかもしれないし、世界は滅びるかもしれない。そんな当たり前のことから目をそらして、定期預金とかしているから笑えるんですよ。泣き笑いですけど」

「で?」

「はい?」

「で、結局、お前は何が言いたいんだよ林檎くん。相変わらず要領を得ない奴だ」

「いえね、私は注意を促しているんですよ。ほら、よく言うじゃないですか。夢は見るものじゃなくて叶えるものだってーーーでもそれって逆でしょう?夢は叶えるものじゃなくて見るものって言うのが本当のところは本当でしょう?将来なりたいものを夢見ているうちは楽しいけれど、それをいざ叶えるとなれば、地味で、あるいは無駄に終わるであろう努力を、毎日淡々と続けなければならないという地獄のような生活が続くわけなんですから。どうしてそんなことをしなければいけないのですか。馬鹿馬鹿しい。妄想しているだけで、人は十分幸せになれるというのに」

「妄想して幸せになるより、夢を叶えて幸せになるほうが、より幸福度が高いからじゃねーのか?」

「そんなことは絶対にありません」

「ないのかよ」

「ありません。ないのです。誰もが憧れる、将来そうなりたいのと望む、まあロックスターでもスポーツマンでも、漫画家でも社長でも、なんでも構いませんが、そんな人間の実生活を想像してみれば明らかです。彼らが好き勝手に生きていると思いますか?そんなことは絶対にないでしょう。雇い主との関係に気を遣ったり、順位や格付けに振り回されたり、スポンサーにへこへこしたり、ファンに媚びを売ってみたり、辛いことばっかりですよ。夢を叶えるというのは、イコールで夢のつまらなさを思い知るという意味です」

「夢を叶えれば叶えるほど、周囲の関係性に気をつけなくちゃ行けなくなるってか?性格の悪いひねくれ者が言いそうなことだな。でも、偉くなって、好き勝手気ままに生きている奴だっているんじゃねーの?」

「好き勝手に生きて、周囲の人間から疎まれながら、嫌われながら生きている奴の話ですか?そんな人間に、誰がなりたいと思いますか?そんなくだらない人間になることが、夢を叶えるということですか?むしろ真逆でしょう」

「うん・・・真逆だな」

「ですから、晴人先輩。子供達には、夢を叶えた人間をブラウン管越しにスナック菓子を食べながら眺める方が、辛い思いをして、色んなしがらみにとらわれながら、楽しい夢を世知辛い現実に変換する作業に邁進するよりもずっと能率的に幸せになれると、教えてあげるべきなのです。義侠心を発揮するべきなのです。夢を見るのは絶賛いいけれど、夢を叶えちゃあ駄目。そう言って回るべきなんです」