情報リテラシー論 其ノ漆

005

 神田彩美。

 中学時代、この辺りの地区で、私と鎬を削りあった他校のバスケットボールプレイヤーだ。ライバル、宿敵と言った方がしっくりくるくらい、何度も何度も対決した。

 はっきりと負けた記憶はないが、明確に勝った記憶もない。

 私が速攻を得意とする攻撃型プレイヤーだとして、沼地はのらりくらりとしたディフェンスを得意とするバスケット選手だった。噂では、敵チームを完封したこともあるとか、ないとか・・・。

 あのプレイスタイルを思えば、さっきの『トロい』喋り方もスタイルも、パーソナリティの一環だとして飲み込めなくもない。

 まあ、そうは言っても敵チームだったので、中学時代、顔見知りではあっても、こんな風に喋ったことはなかったが・・・。

 「今はインパクトの時代だからね。インパクト、そして話題性だ。まずは顧客をびっくりさせないことには、誰も注目してくれない。エンターテインメントも文化も政治も、今や意外性を第一に考えなければならないのさ。位置情報なんてのが世の中に広まったときはびっくりしただろうな。たった三つの人工衛星で地球上どこにいてもその電波から場所を割り出せるって言うんだから」

「どうして」

 考えてもわからないので、私は聞いてみることにした。

「どうして、そんなものを開発して民間人に使えるようにまでしたんだ?」

「お金目当てじゃないのなら、何のためにーーーと」

「ああ、そうだ。そう訊いた」

「もちろん世のため人のためーーーではないよ。世間の黒幕がそんな慈善事業をするはずがないという偏見に満ちた思い込みが、きみの質問の根拠だろう?だとしたらそれは大正解だと答えておこう。きみは私の眼力を評価してくれているようだけれど、なかなかどうして、きみも大したものだ」

「・・・じゃあ、なんのために」

「自分のためさ。GPSってのはもともと米軍が軍事利用のためにこしらえたシステムだ。もしかしたらブラックボックスがあるのかもしれないけれど・・・便利だからみんな使っているだけさ」

 神田は言った。

 悪びれもせずーーーだからと言って、得意げにでもなく、強いていうなら、ひややかに。

 「これはとく勘違いされがちだが、実際に位置情報を計算しているのはスマホなんだ。スマホが複数の電波を受け取って、その電波から位置を計算する。人工衛星が計算してるわけじゃあないんだ」

 だから簡単に嘘の位置情報を認識させることができるんだけど。