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犬のぬいぐるみ

「犬のぬいぐるみ」

「人という漢字は人と人が支えあって
出来ているのですね。」
みたいな言葉が傷口に塗りたくった
塩みたく
痛覚をつついてくるのは
体温が 一つしかいない この部屋で
今日も
一日を終えるように睡眠を取らなくては
いけないからだ。

散らかった部屋でしか
見つけられないものがある
散乱するゴミを小さな両の手でかき分けて
俺は 
支え合う 「人」のつがいの 変わりを探す。

六畳一間のすみ
目を凝らしても見つけられないものは
脱力したら案外明瞭に輝くものだと知る。
クリクリとした黒い目が
鏡みたく ただ佇んでいた。

寂しい
奇遇だね。俺もそう思っていた。
生きづらい
奇遇だね。俺もそう思っていた。
仕事には性が出ない。
それは俺も思っていた。
でも君が仕事のために
身支度をしているのを
見たことがないんだ。

鏡面のような
クリクリとした目をじっと見つめていたら
いつのまにかそれが鏡だと言わないばかりに
俺の 思惑を 反射 させていた。

その布と綿と溢れんばかりの可愛さで
作られた犬の形を語らうぬいぐるみ。
10年あまりその小さな身一つで
一人の人間性の波にうちひしがられていたら。

荒んだ精神を模範するように
君も布がところどころ破け
綿が少しはみ出て
おそろいの ボロボロの身で 揃えてる
そんなところは真似しなくてもいいんだよ
って君を抱きしめても
この部屋の体温は一人分、しかない。

支え合う人がいない孤独を羽織る俺たちが
言語学ひいては
日本語、漢字の成り立ちにおいて
人の成り損ないだとするのなら、
俺が
この小さな犬のぬいぐるみと過ごす
寂しいが 愛すべき日々の 道を指す
新しい漢字を 作ってくれ は しないか

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