メディアの話、その43。体育会と根性と論理。

今週、スポーツに関して、2つのニュースが目に付いた。

1つは、高校の部活の「週休2日制」を政府が検討し始めた、というニュース。

もう1つは、五輪4連覇の女子レスリング伊調馨選手とかつての彼女のコーチ栄監督とのパワハラ問題に関する文春砲ニュース。

前者に関しては、日刊スポーツが、かみついた。

「順番を間違ってないか、公立高の部活週休2日に疑問」

https://www.nikkansports.com/baseball/column/techo/news/201802270000369.html

「教員の働き方改革が待ったなしの状況なのは理解できる。多忙でどうしようもないならば、部活でなく、授業を減らせばいい。学業指導は学習塾にかなりの部分を依存している現状で、仮に授業時間が3分の2になって、勉強ができなくなって困る生徒は、果たして、どれほどいるのだろう。ゆとり教育の失敗を反省し、学習指導を改革すれば、授業時間削減の再挑戦も可能ではないか。」

早い話が、(運動部の)部活の時間を減らすな! 時間を減らすんだったら授業の時間を減らせよ!勉強は学校じゃなくって塾に任せればいいじゃん!という意見である。

メジャーな「スポーツメディア」である日刊スポーツのこの記事は、スポーツメディアにかかわるひとたちにとっては案外「暴論」じゃなくて「正論」なのだろう。

勉強より、部活?

そんなわけないだろう!という向きもいらっしゃるかもしれない。

部活なんてただの余技でしょ、スポーツ選手志望以外の大半のひとにとって。勉強のほうが大切に決まってるじゃない!

運動部系部活派と文科系勉強派。

昔から学校の世界にあった2つの派閥の分断について、小田嶋隆さんがさっそく見事な分析を行っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/030100133/?P=1

小田嶋さんは、理屈より根性、理不尽を耐えることでチームが強くなる、個人が強くなる、という「運動部系部活」にひそむ「信仰」が消えないことについて、こう釘をさす。

理不尽を指摘すると、指摘された側の人間が「理不尽だからこそ価値があるんだ」と答えるこの融通無碍な構造の不死身さが、うちの国の組織の本質なのかもしれない。

私も基本的にはそう思う。

が、一方でこんな記事がやはり日経ビジネスオンラインに出てきた。

お受験ムダ?部活動経験者の将来賃金は1割増加

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/101700172/022800008/

教育経済学を専門とする大阪大学の佐々木勝教授の原稿だ。

佐々木教授によれば、こうだ。

例えば米パデュー大学バロン教授などが00年に発表した研究によると、運動系の課外活動に従事していた米国の男子高校生は、していなかった男子高校生と比べて高校を卒業してから11~13年後の賃金が4.2~14.8%も高いことが分かった。

 スポーツと女性の関係に着目した研究もある。米ミシガン大学が、女性のスポーツ参加と将来の労働力参加率との関係性を検証している。

 米国では1972年に可決された「Title IX(連邦教育法第9編、男女教育機会均等法)」により、連邦政府からの補助金を受け取る学校では、男女平等にスポーツに参加する機会を与えることが定められている。

 法案可決によって、女子高校生のスポーツ参加率は3.7%(72年)から25%(78年)に上昇した。そして女子高校生のスポーツ参加率が10ポイント高まるにつれて、 平均的に大学進学率が1ポイント、労働市場参加率も1~2ポイント上昇した。学校でのスポーツ活動が、女性の社会参加や所得増加につながったことを示唆する内容だ。

高校の部活動が、男子女子ともに社会に出た後に「効果あり」というのが、日本ではなくて、アメリカのデータで実証されている、というのである。

なんだ、やっぱり「部活」大切じゃん!

と、思う方もいらっしゃるかもしれない。

が、佐々木教授の原稿を最後まで読むとわかるが、この場合の「部活」はブラスバンドなど文科系の部活についても当てはまる、と記している。

勉強で得られる「認知スキル」の向上のみならず、社会生活で必要な非認知スキルの向上は、むしろ部活動をはじめとする課外活動で得られる、というのが結論だ。

ということはだ。「部活」が悪いわけではない。基本は「程度」の問題である。小田嶋さんも否定しているのは「部活」ではなく、「部活にともなう理不尽な根性論」の横行や、ブラック体質のほうである。

ただし、運動の世界は「根性論」や「ブラック体質」と親和性が高い。

それを示唆するニュースがやはり今週あった。

冒頭にもあげた、五輪4連覇の女子レスリング伊調馨選手とかつての彼女のコーチ栄監督とのパワハラ問題に関する文春砲ニュースである。

http://bunshun.jp/articles/-/6436

こちらはざっくりいうと、高校時代から伊調選手を育ててきた栄監督。ところが、2連覇のあと、伊調選手はさらなる向上を目指し、栄監督のもとを離れ、男子チームと練習を始め、コーチを変えた。それを栄監督が激怒。かわいさ余って憎さ百倍。伊調選手のコーチをやめさせ、彼女が練習できないようにさまざまな圧力をかけた。それでも3連覇4連覇を果たした伊調選手。いまだに練習場がない。剛をにやした関係者がパワハラとして内部告発……。という流れである。

以上が「真実」であるかどうかは、判断がつかない。あくまで、文春砲の「要約」である。

ここで、ひとつだけ確信を持っていえるのは、伊調選手があるとき「栄ファミリー」から親離れをしたこと。その親離れについて、「親」である栄監督は面白くなく思っていること。栄監督の生インタビューを見て、「面白くないと思っている」ことだけは、きわめてリアルに伝わってきた。

この伊調選手と栄監督の関係は、冒頭に出てきた、高校部活的世界からスタートしている。部活的世界から伊調選手は世界一になり、そして伊調選手は部活的世界から足抜けした。そこでなんらかの「齟齬」が起きた。

伊調選手は、おそらくこう考えた。

すでに私は女子の世界でトップになった。でも、まだまだ「いちばん」じゃない。だって、男子は私より強いじゃないか。だったら、男子と戦って、より高みを目指したい。

そこで、伊調選手は「部活世界」を去り、男子に交じって練習を重ね、世界一を重ねていった。

伊調選手の中にあるのは、勝利に対する飽くなき渇望と、そこにむかって「ロジカル」な道を選ぼうとする論理的思考であろう。

トップに立つスポーツ選手は120%全員、自分自身の鍛錬に関してはロジカルである。絶対にそうである。というのは、スポーツは、物理学と運動生理学を掛け算した、根性などでは解決できない、残酷までにロジカルな世界だからだ。ロジカルじゃないと勝てないのだ当て推量で書いているわけではない。

実は、私はスポーツのトップ選手のインタビューを長年やってきた。王貞治さんから三浦雄一郎さんから、白鵬さんから、為末さんから、吉田沙保里さんまで。私自身は、スポーツの門外漢なので、ゼロから話を聞くのだけれど、いままでお話をうかがったスポーツ選手全員が共通して持っていたこと。それは「勝利に関する飽くなき渇望」と、そこにむかって「徹底的にロジカルに考える思考」である。

彼ら彼女らは、天から与えられた身体能力をベースに、徹底的にロジカルに体を整え、試合までにピークを持っていく。誰も助けてくれない。1人だけの孤独な戦いだ。強い気持ちと冷徹なロジックとが両輪となってなければ、戦えない。

スポーツのトップ選手の美しいまでのロジカルさは、名経営者のロジカルさと、通底する。つまり、そこには、明快な目標とマネジメントがある。

かつてそのスポーツ選手のロジックを見事に描き出したのが、山際淳司さんの「江夏の21球」だった。

そこで最初の話に戻る。

スポーツには、勝利への渇望が欠かせない。でも、その勝利はロジカルな道を選ぶことによってのみ得られる。

ところが、これがスポーツ選手個人ではなく、集団になると変わってくる。部活が典型である。

部活では、指導者が先輩が、はロジカルではなく根性をしばしば選ぶ。

スポーツに根性が必要か。必要に決まってる。スポーツのみならずあらゆる場面に根性は欠かせない。その時の自分の能力を超える挑戦をしない限り、上は目指せない。成長は望めない。でも、その根性が物理的な限界を超えたら人は壊れる。だからこそ、その境目を見極め、時間という限られた資源を生かし、ロジカルな指導を行う人間が必要となる。

トップアスリートは自分で自分を厳しくコーチできる。おそらく伊調選手がそうだ。でもほとんどの人にそれはできない。だからこそ、部活に、コーチにはロジカルさこそが求められる。

と書いていて気づいた。
そんなロジカルなコーチング、学校の先生だけに一方的求めていいものか。
私を含めて、自分の組織でそれができているか?根性wl保ちながらロジカルに考え目標に向かって走る。それができたらだれも苦労はしない。

部活の話をメディアにつなげるのは難しい。一旦やめ。

続きます。

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yanabo

ムシ。国道16号線。三浦半島。鶴見川。御蔵島。カレー。パウンドケーキ。コスタリカのオオキノコムシ。オオ=大といっても1センチちょっと。

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