メディアの話、その40。銃と高校生とだれでもメディアと。

「だれでもメディア」の時代は、だれもが情報発信ができる、ということである。アメリカでは、すでに「だれでもメディア」が、国全体を大きくゆるがし、かつての「慣習」を「非常識」に変える動きがでてきている。

2018年2月14日。アメリカのフロリダ州パークランドの高校で起きた銃乱射事件。17人が死亡した。犠牲となったのは生徒たち。銃乱射を行ったのは、同校を退学した19歳の未成年の男。

アメリカの銃乱射事件は、日本にいるととても語りにくい。日本は、銃による事件がそもそも世界でもダントツに低い国である。警官の威嚇射撃が記事になる国である。だから、なぜアメリカでそんなに銃乱射が起きるのか、根っこのところが頭に入ってこない。

そしてもうひとつは、毎年のように起きる銃乱射事件がちっともなくならないことの不思議さ、である。

私の世代だと、記憶に残る銃乱射事件は、ブームタウンラッツの歌った「哀愁のマンデイ」のモデルとなった女の子による乱射だ。

たしか中学生の頃だったと思う。アメリカの10代の女の子が、「月曜日がきらい!」と言って、銃を乱射し、何人もが亡くなった。

そのあと、ボブ・ゲルドフが歌をつくり、自分のバンドであるブームタウンラッツの曲として大ヒットした。BAND AIDのクリスマスソングを除くと、彼の唯一のヒット曲ではなかったか。ピアノソロか始まる実に美しい曲。

あれが、私の記憶に残っている最初の銃乱射事件。

次は、一気に1990年代に飛んで、マイケル・ムーアがドキュメンタリー映画をとった「コロンバイン高校乱射事件」。たしかこちらもこの高校の卒業生だったか在学生だったかが、数人のいじめられっ子かなにかでトレンチコートマフィアを結成し、銃を買って、高校の屋上から乱射した。

いま、私はあえて、ググらないで書いている。なので、間違いがあると思う。なぜ、そうしているかというと、自分の記憶にアメリカの銃乱射事件がどう残っているのか、たしかめてみたいからである。

この2つの事件が私の記憶に残っていた、過去のアメリカの銃乱射事件。

つまり、日本にいる私にアメリカの銃乱射を思い出させたのは、ロックミュージックとなった「月曜日はきらい事件」と、映画になって大ヒットした「ボウリング・フォー・コロンバイン」事件(そうだった、彼らは乱射をする前にボウリングをしたのだった)。

なんとも情けない話であるが、不謹慎にもエンタテインメントコンテンツとなり、まさにメディア化された事件だけを、私は覚えていたことになる。

つまり、そのくらいリアリティがない。

さらに、もうひとつ。銃乱射事件は、日本から見たアメリカのいちばんの「不思議」をすぐに想起させる。

つまり、「なんでさっさとやめないの」である。どう考えても、いまのご時世、銃を自由に買えるという状況は、犯罪を増やすだけで、犯罪の抑止力にはならない。まさにアメリカにおける銃による殺人件数がそれをデータではっきり示している。

なのに、やめない。

ブームタウンラッツが「月曜日はきらい」と歌ってから、40年近くが経っている。そのあと、何度こうした銃乱射事件が起きたか。しかも、その多くは、なんと今回の事件もそうだし、私の記憶に残っていた2つの事件もそうだが、「高校」が絡んでいる。高校生が起こしたり、高校が事件の舞台となったり、高校の在学生やかつての在校生が起こしている。10代が大量殺人を犯し、10代が大量に死ぬ。どう考えても異常である。

にもかかわらず、この異常は40年前から結果として放置されている。

必ず登場するのが、NRAである。全米ライフル協会。

名前だけは、日本人の私たちも知っている。かつての会長は、チャールトン・ヘストン。マイケル・ムーアはボウリング・フォー・コロンバインで思いっきりツッコミ、おちょくったインタビューを行っていたが、小さい声で告白すると、昔、けっこう好きな俳優だったんですよね。

田中小実昌さんは、「チャールトン・へストンの出る大作映画はだいたいイモ映画」とバッサリ切っていたけど、そのイモ映画と大袈裟なイモ演技が、チャールトン・ヘストンじゃないとできないものばかりであった。

まずは、史劇。モーゼ役をやった「十戒」に、かつて日曜洋画劇場的にはいろいろな意味で史上最大の映画の扱いだった「ベン・ハー」。「エル・シド」なんかもあった。史劇といえば、チャールトン・ヘストン。アメフト選手だったへストンの、やたら肩幅が広くって、腰高で、厚い胸板を有する肉体は、半分裸みたいな史劇にはぴったりであった。40年前だったら、絶対に「テルマエロマエ」の出演をお願いするところである。

それからSF。なんといっても「猿の惑星」で、こちらもマッチョな肉体と、猿の惑星の猿たちに負けない面構えが、SFという「嘘」の中で実に映えた。「ソイレントグリーン」「オメガマン」といったデストピアSFもお手の物だった。

あとは、パニック物。70年代やたらと流行った「大空港」を端に発する「エアポート」シリーズや、タイトル忘れたけど、巨大地震ものにも出ていた。

70年代の小学生だった私たちは、テレビ洋画劇場を通じて、史劇やSFやパニックムービーや西部劇(「大いなる西部」はよかった)など、「現代じゃない時代」のヒーロー、チャールトン・へストンのイモ演技を楽しみにしていたのである。彼の現代劇って、オーソンウェルズの「黒い罠」くらいしかすぐに思いつかないですね。

そんな、現代離れした俳優チャールトン・へストンが会長をやっていた全米ライフル協会の言い草は、いつだって「銃を自由に持てるのはアメリカ人の最大の権利だ!」「国家に勝手に支配されないために、自由の象徴として、我々は銃を手放さない!」。たしかこんな感じであった。

なんだか「西部劇」のセリフみたいである。「西部劇」的価値観がいまもずーっと続いていて、それがアメリカの根っこにあるのかな。トップはチャールトン・ヘストンだし。。。旅行と出張で、ほんの少々しかアメリカを知らない私は、勝手な憶測をする。「今度もまた、NRAが出てきて、お茶を濁しておしまい」かな、と銃乱射事件が起きるたびに思う。結局のところ、アメリカ政府が動かないというのは、少なくない数の国民もまた「銃こそ自由」と思っていて、それが選挙の票に反映されているからで、うーん、そういうところもふくめて「アメリカ」なんだろうなと結論づける。そんな「アメリカ」を無責任にちょっとだけ好きだったりする自分がどこかにいて、アメリカの「ドンパチ映画」を、だって俺は大好きじゃないか、と。そんなことを思い、実際にだいたい同じようなプロセスを経て、そして事件を忘れる。

ところが、今回の事件は、別の動きが起きていた。犠牲者となった高校生たちと同世代が立ち上がったのである。

犠牲者たちと同世代の高校生たちが銃規制を求める抗議デモを行い、生き延びた高校生たちが、テレビでNRAやNRAから献金を貰っていた銃規制反対派の議員たちと公開討論を始めたのである。

詳しい話は、アメリカ在住の作家、渡辺由佳里さんのcakesでのコラムをぜひお読みいただきたい。彼女のアメリカに関するレポートはピカイチである。

「フロリダ高校乱射事件は、銃規制の新たな#MeTooムーブメントになるか?」 https://cakes.mu/posts/19843

渡辺さんによれば、こうである。

同州の高校生たちが銃規制を求める抗議デモを行った。そして、目の前で同級生や教師を殺され、自らの死の危機にさらされたマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校が公の場で活動を始めた。

そのひとつがCNNの公開ディスカッションだ。生き残った高校生らが2016年の大統領予備選に出馬したマルコ・ルビオやNRAの広報担当者デイナ・ロシュに厳しい質問を投げかけた。ルビオは、全米で6番目に多くNRAから政治資金を受けているフロリダ州選出の共和党上院議員である。

(引用終わり)

こういう動きは、いままでの銃乱射事件のあとにはなかったという。今回の事件では、事件の犠牲者となった高校生とその世代が動き始めて、メディアに登場した。そして、銃規制を阻むNRAや規制反対派の「大人」たちに対して、実に冷静に議論を行っている。

そして、いまアメリカの世論調査では、早くも銃規制の方向に傾き始める動きが出ているという。

彼ら高校生に対して、「高校教師に銃を持たせればすぐに解決する」という、ある意味で期待を裏切らない回答をしたトランプ大統領の支持率はぐっと下がった。

渡辺さんは、高校生たちがメディアに登場し、その発言が世論を動かし始めている背景にには、昨年の「me too」のムーブメントが関連しているかもしれない、と指摘する。

ハリウッドの超大物プロデューサーの長年にわたるセクハラとパワハラを女優(たしかアレッサ・ミラノでしたね)が訴えたことを契機に「me too! 私も被害にあってきた!」と多数の女優や業界関係者が咳を切ったように告発をはじめ、この流れは映画業界を超えて、アメリカのあらゆる「男性優位社会」をぐらぐらと揺らし続けている。

ここで「me too」ムーブメントを後押ししたのが、「だれでもメディア」のツールであるインターネットサービス、SNSなどであることは論をまたない。

同じような動きが、乱射事件を契機として「銃規制」の問題にも起きる可能性は十分にある。強固に揺るがなかったアメリカの「銃を持つ自由」という「常識」が「非常識」になる日が来るかどうか。アメリカの個々人が「だれでもメディア」となって、同時に声を発し始める。その動きが出るかどうかも、これからである。たぶん出る、と私は思う。

続きます。



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