メディアの話、その53。原子力発電所の安心と安全。

今回は、2つの記事を紹介する。

私がプロデューサーを務めている日経ビジネスオンラインに掲載された。

執筆者は松浦晋也さん。尊敬する科学ジャーナリストだ。

その松浦さんが、昨日、こんなタイトルの記事を書いた。

「考え続けている。原子力発電は本当に危険か? 非常事態を日常の視点で考えてはいけない」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150302/278140/031200004/

眉をひそめるひとがいるかもしれない。

あの事故をみて、原子力発電が危険じゃないわけがないだろう、と。

そう思ったひとこそ、この記事をぜひ読んでほしい。

原子力発電の事故の何が問題だったのか。何が「恐怖」なのか。

この「恐怖」に対応するのは、恐怖心を煽る言葉は、実は力を持たない。

科学が起こした失敗と罪は、科学で対応するしかない。

松浦さんは書く。

ーー必要なのは、科学に基づいて定量的に物事を考えること。そして、すぐに答えがでないからといってめげることなく考え続けることだ。

松浦さんの筆はここで止まらない。

今日アップされた続編の記事を読んでほしい。

「原発を造る側の責任と、消えた議事録 失敗のプロセスこそ周知徹底すべき」

http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20150302/278140/031300005/

今日の記事には、実はとんでもないスクープがある。

この記事では、まず、なぜ東京電力福島原発は被災し、東北電力女川原発は被災しなかったか。
松浦晋也さんが、過去の議事録をベースにその理由を明らかにする。
違いは明白だった。

根っこにあったのは、中世の貞観地震の津波被害を織り込んだか織り込まなかったか。東北電力は折り込み、高いところに原発を設置し、東京電力は折り込みきらず、結果、津波にやられてしまった、というのだ。


そしてここからがすごい。
実は経産省の専門家の学者が、東京電力に対して、貞観地震の津波を考慮すべきと正式な会議で指摘し、東電がそれを考慮しなかった事実があったのである。

総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会 耐震・構造設計小委員会の地震・津波、地質・地盤合同ワーキンググループの第32回会合(2009年6月24日開催)で、経済産業省・産業技術総合研究所の地質学者・岡村行信氏がこの問題を指摘していた。貞観地震という巨大な地震が実際に過去に起きており、しかも大津波すら到達していたことがはっきり分かっているのだから、こちらを前提にして検討すべきだ、と、岡村氏は主張した。

そしてさらに、ここからがスクープだ。


なんとこの会合の議事録、いま「削除」されて存在しないのだ。
公文書がなくなり、議論もなかったことになっている。
松浦さんは、海外のアーカイブに残っていた当時の文書を掘り起こし、「消えた議事録」の内容をつまびらかにした。

公文書を消してしまう。

科学と技術に失敗はつきものだが、その失敗を越えるためには、過去の失敗のプロセスをきっちり残し、検証することが欠かせない。

にもかかわらず、公文書を消してしまう。

この「習慣」がある限り、別の形で、科学技術が招く不幸が繰り返される。

その警鐘として、松浦さんの記事は非常なる説得力を持つ。

メディアの仕事とは、こういうことだ。

続きます。

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