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地獄変(著者:芥川龍之介)

底本:「芥川龍之介全集 第一巻」岩波書店 1995年11月8日発行
 
『地獄変の屏風の由来程、恐ろしい話はございますまい。』大殿様は突然良秀(よしひで)を呼び、地獄変の屏風を描くようにと、言いつけた。この屏風の絵も凄まじいが、この絵の由来もまた凄まじい。
 
この絵の由来に欠かせないのは、画師の良秀、その娘、娘が可愛がった猿である。
 
良秀は、当時、絵筆をとったら、右に出るものは一人もいないと言われた位、高名な絵師である。しかし、良秀は、横柄で高慢であった。そして、立居振舞が猿のようだと言われ、猿秀というあだ名までつけられた。良秀は誰にでも嫌われた。
 
大殿様の御邸には、十五になる良秀の一人娘が働いていたが、親には似ないで愛嬌のある、誰からも愛される娘であった。良秀もこの娘が可愛くてたまらない。
 
何かの折に、人馴れた猿が一匹献上された。いたづら盛りの若殿が、この猿に良秀という名をつけ、良秀良秀と呼び立てて、いじめていた。あるとき、若殿にいじめられている猿を良秀の娘が救い、以来、猿は娘を慕うようになる。
 
この画師の良秀、その娘、娘が可愛がった猿が地獄変の屛風とどう関わるのか。地獄変の屛風を創る過程でこの二人と一匹は、死ぬことになる。それは、なぜか。芸術至上主義がもたらした不幸は、どのようにして起こったのか。味わって下さい。
 
注:『』は、引用文

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