マガジンのカバー画像

あだち充『H2』ネーム完全解剖

17
あだち充『H2 1992~1999に小学館・週刊少年サンデーで連載された野球マンが。数あるあだち作品の中でも最高傑作だと思います。 それがどいうネーム構成になっているか、どういう… もっと読む
運営しているクリエイター

記事一覧

あだち充『H2』ネーム完全解剖    第23巻

二年の夏の甲子園は明和第一が優勝して幕を閉じた。2回戦で負傷した比呂はしようことなしの夏休みを迎える。 比呂、春華、ひかり、英雄、木根、小山内の恋、恋心が絡み合う。 第4話 海と比呂に、 素晴らしい構成である。 場所は一貫して海。だが厳密な三幕構成になっている。 舞台を一貫することで、場面転換のエネルギーを読者に求めない。読者も集中しやすい。あだちさんはここぞという時は場面転換を避けるようにしている。 本回はあだちさんの技が炸裂している。 あだちさんの得意技「語らず伝える

第18巻

夏の甲子園出場を決めた千川高校が、現地に乗り込むまでの巻。同じ東京の南地区代表に明和第一がなり、比呂と英雄の甲子園対決を読者にハッキリ意識させる展開になっている。 第1話 すごすぎだよ 現在進行形ながらノスタルジックな雰囲気がある。それは他の全員がこれから先の事を見つめている中で、主人公・比呂(そして春華)が辿り来た道の険しさを振り返っているからである。 最終2ページ「知ってます?」の場面が決まれば、あとは甲子園に沸き立つ人を描いておけばいい。ある意味楽な構成。

第3巻

明和第一と試合をして勝てば野球部を作る。負ければ解散をする事になった千川高校野球愛好会。実に少年漫画らしく、いささかご都合主義的な展開。あだちさんは序盤の設定の少しぐらいの粗さは気にしないようである。作品の面白さが設定ではなく展開にあると見切っているからだ。 とは言え少年漫画らしいワクワクする展開であるのも確かだ。ボクは自分の初めての連載『up・setぼ~いず』(のち筑摩書房『アップ・セット・ボーイズ』)でこの展開を借用した。 第8話 たいした成果だ 明和第一の戦力詳細を探

第15巻

千川高校対栄京学園の試合を中心に腕に違和感を覚える広田、新球の開発をする比呂、揺れる島、大竹を描く。 春華のサービスカットがある。 第6話 ヨロシク ハッキリした三幕構成。 P95~P101 借金取りに追われながらも息子の応援に来る島の父親。 P102~P108 試合前の練習風景。島と広田の絡み。大竹を見つめる広田。 P109~P112 試合開始。千川を動揺させようとした広田の機先を制する比呂。 島と大竹は、広田が千川高校に送り込んだスパイ。試合を攪乱して英京学園が有利に

第20巻

この前後数巻は『H2』の胸つき八丁だ。 野球漫画としての結末は既に決まっていただろう。それは言葉を替えれば、この辺りが手順のための手順になってしまう恐れがあるという意味だ。手順のための手中に陥ると漫画の熱量低下を招くし、読者も勘づいて離れてしまう。長期連載をやっていると、こう言う難しい時期は必ず来る。そこをどう乗り切るかが漫画家の腕である。 同じ野球漫画でも佐々木守+水島新司『男ドあほう甲子園』なら、主役の藤村甲子園が闘志をまき散らし「うぉおおお」と叫んでボールを投げ込んでく

第21巻

本巻は全巻の三分の二に当たる。19から22巻辺りが、あだちさんにとって製作にもっとも苦労したのではないだろか。 千川高校・比呂が栄京学園・広田との正面衝突を乗り越えたあと、読者が期待するのは明和第一・英雄との対決だ。だがそれをするには人間関係の整理がついていない。何よりまだ二年生の夏である。高校生活はまだ一年あるのだ。 つまり、クライマックスのための消化試合をここではこなすことになる。製作してる方は消化試だとわかっているし、読者だって薄々は気がつく。こういう時に盛り上げていく

第11巻

北東京大会二回戦で千川高校は優勝候補の強豪・石神商業と対戦する。中軸にスラッガー支倉をおいた強力打線と対峙する比呂。一巻まるごとつかって試合を描く。プレイの描写が素晴らしい。特に比呂の速球の描き方は抜群。 漫画は自分がよく知っているものを描くのが一番良いと言うが、さすがは野球好きのあだちさんである。 第11話 ふーん P59からP63の5ページが第一幕。ひかりが観戦に球場に訪れた話。スポーツ紙記者である叔父が来ている。この叔父はひかりと比呂の関係について穿った言葉を言う役

第33巻

いよいよ明和第一+英雄との対決が迫る千川+比呂。場所は夏の甲子園の準決勝。 ここから心理描写も情景描写も尋常ではない濃密さで展開されていく。クライマックスである。 第10話 人それぞれ 気がついただろうか。 本回、主人公・比呂は一度もセリフがないのだ。 にもかかわらず、比呂の心情がよく伝わってくる。 一体どうやったらこんな離れ業ができるのか? 実は、比呂のアクションのあとに必ず誰かが解説をいれているのである。 P172、173では前回(第9話)でのスローボールを投げた比呂

第31巻

舞台は夏の甲子園。最終決戦が近づく。と言ってもあだちさんはペースを変えない。数巻後に盛り上がることはわかりきっているので、なるべく平静なペースのまま進めている。その最後の決戦は比呂と英雄、しかもひかりを巡って…となるので夾雑物になりそうなものは少しづつ精算をしていっている。 ここにベテランの計算と自信が感じられる。 第1話 好きなのか? 伝えるべき情報は 1 夏の甲子園が開幕した。千川高校は二回戦、6日目に登場 2 比呂の初恋はひかりだった。 だけである。 1を取り上げたの

第27巻

野球の試合をちゃんと描くというのが『H2』の趣向だ。だからといって全ての試合を描くと冗長になってしまう。結果だけで良い場合も多い。 この巻は千川高校+比呂の甲子園優勝というイベントの下準備である。それさえも 春・夏連覇を狙う千川+比呂VS夏の二連覇を狙う明和第一+英雄 という大舞台の下準備に過ぎない。 比呂が甲子園で投げているにも関わらず、この巻の主役は英雄である。それで下準備ながらドラマを感じるように作られている。 第8話 子供だな 本巻冒頭から英雄をめぐる事情が続いてい

第26巻

常に先行していたライバル英雄に主人公・比呂が追いつこうとしている巻。二年生のお終いから三年生への春。普通なら野球一色になりそうなターンなのに恋愛の話で終始するのがあだちさんらしい力の抜き加減。 とは言え、実はあだち漫画でこれだけ恋愛の話しが続くのも珍しい。なぜなら「幼なじみ」があだち漫画の特徴。『H2』は幼なじみへの思いを振り切ろうという少年のドラマなのでこういう展開になる。 春華に恋する三善という少年が都合七話出てくる。三善への嫉妬を通して比呂の春華への気持ちが明確になって

第25巻

15巻以上影を落としていた栄京学園・広田との決着がつく本巻。最後に広田にも一応の救いを見せる。長く付き合うとヒールでも思わぬ変貌を遂げる時がある。内面を見ているうちにヒールになる必然が見つかった時だ。その必然を描くと、描くことが必然からヒールを解放することになる。この巻の広田がまさにそれ。そして広田を解放する(そういう意図がなくても)役回りを担うのが主人公。比呂である。 熱い試合を描いても、あだちさんは高校生活の枠をかたくなに守る。それが、終わりがあるから生まれる美しさを感じ

第12巻

動き始めた千川高校野球部+比呂。ライバルの明和第一+英雄、栄京学園+広田の動きも描写。やがて近づいてくる栄京学園との対決と水面下での動きも描かれている。 が、印象的なのは四人の男女。特に、第3話でキスしてしまった比呂と春華、それをみて動揺するひかり…嫉妬、恋などが丁寧に描かれているのがこの巻の特徴だ。 第5話 オーレ 大きな二幕構成または緩やかな四幕構成。 P77~P86 広田パート  うちP83~P86 監督による広田の話 P87~P94 ひかりパート うちP91~P94

第9巻

この巻は全体の中では幕間的なニュアンスをもつ。一年生のお終いから二年生へと移り変わる時期。ライバルである橘英雄の凄さとヒール・広田の存在感を前半で強調。途中から主舞台の千川と比呂に話を戻している。あだち充は目先を変えて力を抜くのが上手い。 前のめりの展開にしたい時は主人公一辺倒にするといい。同じ高校野球漫画のちばあきお『プレイボール』と比較すると分かりやすい。 第6話 おそい! 比呂と春華のデートの話。正確にはデートの待ち合わせの話(デートそのものの話は以前している)。 緩