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あだち充『H2』ネーム完全解剖    第32巻 第1話

長かった『H2』も最後のターンにはいる寸前。
残り二巻で一番大きな問題を回収するために英雄が動く。
また、古賀監督の意表を突く用兵が場を盛り上げる

第1話 そんな理由で
P6下 石元のアップ。それを見ている明和第一・稲川監督の横顔。POVの応用

P7下 宇島東マネージャーの斜め横の顔。続いて英雄のロング。ページが替わって英雄のアップ。POVの応用。宇島東マネージャーの注意が英雄に向いたことをクローズアップが表している。その英雄のPOVが宇島東マネージャーの顔。相互にPOVが起こることで無言の交流があったのがわかる。

P9中段。差合っていく野田の後ろ姿。次のコマで比呂の全身が映る。野田の姿を見ているのが比呂だとわかる。POVの応用。続いて窓外の景色。次のコマで比呂の顔が映り、POVの応用とわかる。

P10上段。前ページ最終コマを引き継ぐ形で比呂のPOV。夏雲。それを補強するように比呂のモノローグ。このあたりは左右に振れる比呂の視線を丁寧に追っている。

P12上段。ひかりと石元のPOVの応用。石元の彼女を見る。

P12下段。ひかりと英雄のPOVの応用。石元と彼女を見る。

P13下段→P14上段。英雄を見送るひかりのPOVの応用。

P14上段。階数表示。そこを中心にカメラを引くと、踊り場に座るひかりが見える。

P14中段。ひかりの亡くなった母の写真を先に映してからひかりの横顔で、POVの応用。モノローグの内容によってひかりが踊り場にいるメタファーが知れる。流されていく時に抗おうとする彼女の子ども心の表れである。大人の階段登るガラス靴…という、あれである。

P17下段。瓶を差し出す手。カメラを引くと英雄。

P18中段。野田のアップ。POVで英雄の背中。P18、P19はセリフ劇なのでカメラが細かく切り替えされ、読者が飽きないような場面作りになっている。
この河口は頻繁に出てくる。登場人物たちが真情を吐露するときに、この河口がよく使われる。ここでは英雄が真情を吐露する。

P20、P21 上段。英雄の横顔から川面のPOV。二回同じようなカメラワークにしたのは英雄の視線が揺らいでいない=気持ちが固まっている表れ。


P21下段→P22上段。英雄と野田によるPOV。比呂がフレームイン。

POVはPoint Of View。主観ショットといわれる技法。
人→モノのPOVよりモノ→人のPOVの方が若干の時間のズレと柔らかい感じを受ける。
分解すると、あだちさんの漫画は視線の遣い方がとても細やかなのがわかる。


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