分解4のコピー

最強(たぶん)漫画で漫画術19    動きのある絵

絵が活き活きと動いて見えるように描くにはおおよそ三つやり方がある。
①形を使う
②シャッタースピードを遅くする
③シャッタースピードを速くする

順に見ていく。

①形を使う
いわゆる構図である。
あ、いきなり脱線するけど漫画の講師で「視線誘導」って言葉をやたら使って解説する人がいる。「ここはこっちに視線誘導してて」とか。あれって使ってる本人は気持ち悪くないんだろうか?聞いてるボクは気持ち悪い。
だって漫画の画面は全部視線誘導だから。事実上なんの説明にもなってないことをしたり顔で説明されてもなあって思います。

んで、構図なんですけどね。構図ってのは人の気持ちに意外なくらい働きかける。安定を感じる構図も不安定な気持ちになる構図もある。例を見ましょう。

これは安定を感じる構図である。次と比較するとわかる。

同じ形なのに急に不安定になったのがわかると思う.。安定した状態に戻りたくなる。この不安定さが絵に動きをつけるのだ。実作で見よう。

亀倉雄策氏の東京オリンピック(1964の)ポスター。一目瞭然、斜めになった三角形の構図がここにある。その三角形は足下のラインの方向に倒れたこみたがっている。その感覚が絵に動きをつけている。
日本の商業デザイン史上の最高傑作。

②シャッタースピードを遅くする
シャッタースピードとはカメラのそれである。素早いモノを映すとき、ゆっくりとシャッターを切るとモノの形は不安定にうつる。残像が写り込んだり、ぶれたりする。それに似た感じに描くことで動きを表せる。動いてるモノを描くのにいい。例を見よう。

森川ジョージさんの『はじめの一歩』。鷹村が異常な早さで動きまわり残像を残す。森川さんが速いものを描くときはこのタイプが多い。例外的に宮田の動きを描くときはシャッタースピードを早くすることが多い。
ただし、このタイプの表現は難しい所もある。かつて漫画がほのぼのしたものを描くためのものだった時代、動きの速いものを表すために一つの画面にいくつもの残像を描いていた。それを、辰巳ヨシヒロさんが時間経過とコマ割をシンクロさせてシリアスな表現を可能にした。
残像を描くというのはしくじると、辰巳以前のコメディ・ほのぼの表現にもどしてしまう恐れがある。そこを配慮しつつ画面を作るといい。

③シャッタースピードを速くする
対してこちらは動きそのものを表現するのに向いている。モータードライブなどで高速の物体を楽々写せるようになった現代の技術を前提にしてる。例を見よう。井上雄彦さんの『スラムダンク』。

井上さんは海外のバスケットボールのグラフ誌などを活用しながら仕事したそうである。人の目では捉えきれないような瞬間の動きを克明に描いている。井上さんの優れているところはシャッタースピードの速いものと遅いモノを共存させた画面も作ってしまうところ。上図の次のページはこうなっている。

ボールと桜木だけが別の動きをしているのがわかる。シャッタースピードの速い世界でもなおぶれる超高速の世界が感じられる。
映画では『マトリックス』がこの手を使っていた。

モータードライブで連写すると動きが分解写真になっていく。どこを取り上げると、その動きらしく見えるか、漫画家は一人一人考え方が違う。例えば下のようなバッティングフォームを見てみよう。

誰が描いても同じように見えるかも知れないけど、そうでもない。例えばこれは水島新司さン風。

ざっくりと動きをわけ、しかも最後の絵はボールがバットに当たるインパクトの瞬間から若干ずらす。そうすると読者は前後の動きを想像して、この絵に動きを感じる。
次は同じ野球漫画でもあだち充さん。

あだちさんは動きの始点と終点は分かりやすい場所において(構えたところとフォロースイング)途中をどれだけ少ない絵で見せるかに気を遣う。それで動きを感じさせる。


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