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第3巻

明和第一と試合をして勝てば野球部を作る。負ければ解散をする事になった千川高校野球愛好会。実に少年漫画らしく、いささかご都合主義的な展開。あだちさんは序盤の設定の少しぐらいの粗さは気にしないようである。作品の面白さが設定ではなく展開にあると見切っているからだ。
とは言え少年漫画らしいワクワクする展開であるのも確かだ。ボクは自分の初めての連載『up・setぼ~いず』(のち筑摩書房『アップ・セット・ボーイズ』)でこの展開を借用した。

第8話 たいした成果だ
明和第一の戦力詳細を探るべく、比呂と野田が野球部に潜入する。英雄の練習用ユニフォームを拝借して…という少年漫画っぽい展開。
内容的にはP131からP145までの明和第一野球部と、それ以外の場面になる。
明和第一の中では選手の様子を見ているだけの単調なシーンだが、それを
正体がばれそうになる
というピンチを織り交ぜて、飽きさせないようにしている。また、大所帯の名門校に混ざっても、比呂と野田の力が傑出しているとわかるシーンで読者の爽快感も誘っている。
ストーリー的になんでもないような回をちゃんと読ませるのは、プロットの力である。
最後の1ページで次回ストーリーの冒頭が入ってシーンを繋げていくやり方を『カット アンド スラスト』という。


第10話 かぜですか?

大きく二つのパートからできあがっている。

P168~P175 試合直前の各人の様子
P176~P184 試合開始後の様子

本格的野球漫画も目指す『H2』にとって初めの野球の試合らしい試合になる。
第一パートは負ければ解散という状況の中で頼りになる名二塁手・柳が来ない。その小さいサスペンスを縦軸にしている。その解決篇P175が一番盛り上がるようにできている。
第二パートは後攻の千川・比呂が第一球を投げる寸前まで。P184が胃一番盛り上がり、そのまま次回に繋がるようにできあがっている。ここを盛り上げるために、明和第一の校長や選手たちの千川高校を侮った発言が前ぶりにしてある。


日本の現代漫画はハリウッド映画の文法をたくさん取り入れてきた。何かを見つめているような顔の絵があって、次に人なり物なりが出てくると、先の顔はその人、物を見つめている。Point of view というハリウッド映画の技法の一つである。
セリフを減らし視線でキャラクタの感情を表現するあだち漫画ではPoint of viewが多用されている。
P183はPoint of viewの応用。二段目の比呂を居並ぶ人々が見つめている、という描写である。多くの人が見つめているという状況で場面の緊張感を高め、次ページの英雄のモノローグにつなげ、さらにその視線をPoint of viewとして使い最終コマの比呂に繋げている。P183で比呂をロングで描き顔の表情を出さなかったのは、最終コマの印象を強めるためでもある。


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