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第17巻


第一話 四球でもいいか?(全18ページ)

この回は前半の白眉。栄京学園のエースで強打者・広田と主人公・比呂の真っ向勝負の場面だからである。あだちさんは非常にテクニカルなネーム構成をしている。
まず一ページ目(P5)は例によってタイトルページ。こういうオーソドックススタイルは好感持てる。作家としてのゆとりも感じる。全体は三幕構成として完璧。だがそれだけでなく起承転結としてみてもよくできている。また比呂、野田、春華、広田、栄京学園監督、それぞれのキャラクターアークが短いページ数の中でもよく出ている。
しかもストーリーだけでなく絵も素晴らしい。漫画家あだち充のすごさを感じる。

こういうネームはどうやって作れば良いのか。
まねしやすいのはミッドポイントの設定である。P12で広田が出てくる。第一話の8ページ目。物理的にほぼ真ん中。このよういに大事なポイントをささと物理的な真ん中においてしまうのが、上手い。前半はミッドポイント以降の盛り上がりのためにある。すなわち次の二点。
1 暑くて比呂に疲労が貯まり始めてる(栄京学園監督の観察)
2 ランナーが出てしまう
比呂はここまで広田に結構打たれているので当然のように読者はピンチを予想することになる。

このあと、この巧みな展開をまねしてネームを作るのならどうすれば良いのか?
まず残りページをカウントする。P13~P22、10ページある。そのうち最終ページを今回のまとめに使うとすると残り9ページ。
比呂の四球嫌いの理由説明と、四球を覚悟で我が儘を通す剛球を投げてるという事情説明に2ページ。残りが7ページ。
広田をフルカウントから三振に討ち取るとすると6球。三振に取る投球に2ページ使う(投げる1ページ、打てない1ページ)と、残り5球に5ページ。一球1ページ使える計算になる。いきなり見通しがよくなったのがわかるだろう。
本人がその時どういう手順で考えたかはともかく、よくできたネームはロジカルに解明ができるモノなのだ。
しかもあだちネームの巧妙なところは投げる以外に電光掲示板のボールカウントを代用していること。こうすると流れは変えずに画面の種類を増やせる。カウントのある競技の漫画のネーム作る時にこの手は使える。

最後に絵について。広田が球筋を読み切れずにボールなのに空振りしてる、強打者・広田を惑わすほどの速球を比呂が投げている、というのをあだちは巧みに絵とセリフで表現している。P6で野田がボールを眺め見てるのがその前ぶりだ。その姿で読者は
「今のは高くてボールなんだ」
とわかる。そこに栄京学園監督の言葉などが乗っかり読者はさらに具体的に理解していく。P22で審判のアウトのコールではなく歓声で事態がわかるのも、予めそういう線がひいてあるからなのだ。

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