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『レトロゲームファクトリー』物語 第1話

■ レトロゲームファクトリー

 2018年10月27日に、新潮文庫nexから、拙作『レトロゲームファクトリー』が発売されました。それから約4ヶ月強が経ちました。

 時期的に、店頭での販売はほぼ終わり、これからはネットで情報提供をしていかないと「埋もれたコンテンツ」になってしまいます。

 書店では、毎月新刊が出て棚が入れ替わりになるので、よほど名の売れた作家の本でなければ、棚に残ることもありません。何か特別な事情でヒットしない限り、そこから細々と売っていく必要があるわけです。

 『レトロゲームファクトリー』は、書いた本人が言うのも何ですが、おもしろい本に仕上がっています。プログラムを書き、自身もゲームを開発する著者が、ファミコン直撃だった自身の少年時代を振り返りながら書いた小説。

 主人公は、レトロゲームを現代のハードに移植する会社の社長とプログラマ。2人は、ファミコン時代のゲームを移植する仕事を請ける。しかし、その開発者は失踪していて……、という物語です。

 自分自身のプロフィールを考えると、ゲーム小説は当然書いてしかるべきテーマです。しかし、この小説が、すんなり生まれてきたわけではありません。新潮社とのやり取りの開始、様々な企画出し、そして執筆開始まで、紆余曲折がありました。

 この原稿では、そうした『レトロゲームファクトリー』が誕生するまでの話を、数回にわたって書いていこうと思います。

■ 松本清張賞

 話は2014年に遡ります。かなり力を入れて書いた小説が、KADOKAWAの日本ホラー小説大賞の一次予選しか突破できず、私は納得できずにいました。

 過去に、日本ホラー小説大賞は、2度最終候補に残っており、その時の小説と比べても、最終候補に残っておかしくない小説だと思ったからです。

 そこで、エンタメ系の小説賞が他にないかと探し、たまたま松本清張賞を見かけたので、ブラッシュアップして送りました。

 その原稿が、2015年の第22回松本清張賞に残ったのですが、「人間が書けていない」と選考委員の全員に言われて落選しました。

「確かに人間ドラマはないよなあ」と。

 ジェットコースタームービー系のホラー小説だったので、人間ドラマには焦点を当てていません。話自体は面白いのですが、選考委員が求めているものではなかったようです。

 その時に、選考委員がどういう話をしたのかを、文藝春秋の担当の方に教えてもらいました。松本清張賞は、最終候補に残ると担当が付きます。そして、はじめて選考委員がどういう基準で原稿を判断しているのか知ることができました。そこで、対策を施した原稿を、翌年の松本清張賞に送りました。

 2016年の第23回松本清張賞で、再度最終候補に残りましたが、2度の決選投票で破れて落選。その日の夜、担当者から「本にするという話が来ると思うので、原稿は他の賞に送らずキープしておいてください」と言われて、「それよりも落選のショックがなあ……」と思いながら帰宅。

 最終的に本として、2016年08月27日に文藝春秋から『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』というタイトルに改題となり、デビューに至りました。

 この時、初めて、私の書いた原稿が、商業の形で人目に触れることになったのです……。(続く)


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