ハートドリブン 目に見えないものを大切にする力

1. 緒言

 本書は、【感じて、分かち合う】ことをテーマに(株)アカツキ代表取締役社長『塩田元規』氏によって書かれた。時代は変化し、合理・論理など目に見えるものが中心の時代から、感情・ハートが中心の世界に移り変わっている。
 本書を読んで私は非常に衝撃を受けた。多くの著者が述べていたことを総合した時に、私の中に残ったのは「感動を与える」ということであり、この先の未来では正にそれが最重要となると考えている。それを、自身の体験を交えて描かれており、言葉では表せられないくらい衝撃が走った。
 現代では既にものが溢れており、困るということが少なくなった。その中で、企業ができることは、「ただモノを作る」だけでなく、商品を使用してもらうことで、消費者に「感動を与える」ことだ。それができなければどんな企業であっても淘汰されるだろうと考えている。
 前置きが長くなってしまったが、早速本書の紹介をしていこうと思う。

2. 【見方を変えてみよう!世界はもう心の時代へ入っている!】

 人間は常にフィルター(色眼鏡)をかけてしか世界を見ていない。例えば、職場の上司に怒られたとき、「悪意を持って怒っている」と捉えてしまえば、その通りにしか見えなくなってしまうのだ。その他にも、成功者に対しては成功している部分しか見ていないので、「頭が良いから」とか「才能があるから」というフィルターで人を判断してしまうこともある。
 では、そのフィルターをどうすれば外せるか。それは、【虫の目・鳥の目・魚の目】を持つことだ。虫の目は、広い視野で物事を捉えることに役立つ。物事の状況を見られるようになる。鳥の目は、俯瞰的・鳥瞰的に物事を捉え、物事の枠組み全体が見られるようになる。魚の目は、トレンド流れを見るのに優れている。これらの目を活用することで、フィルターを通してしか見られなかった景色が一変し、世界が変わって見えるだろう。
 緒言でも述べたが、世界は3つの変化を遂げている。
① 便利さ(機能的価値)の時代から、心(感情価値)の時代へ
② 画一的な価値観から、多様な価値観を認め合う時代へ
③ 透明性の加速。DoingからBeingの時代へ

 先ず、①について。ゲーム産業は数十年経っているが未だに衰えを知らない。その市場規模は15兆円以上と言われており、今やMicrosoftやFacebookもゲーム産業に投資しており、更なる進化を遂げていくだろう。ゲームと感情価値との関係とはいったい何があるだろうか。それは、私たちはRPG(ロールプレイングゲーム)に感情価値を払っているということだ。
 RPGには、ストーリーがあり、その上で目的が設定されている。仲間と協力して難敵に打ち勝ち、成長していく。ここの全てに感情価値の要素が含まれているのだ、例えば、ストーリーが進行していき、新しい町や仲間に出会えてワクワクし、未知の展開にドキドキし、難敵を倒したりクエストをクリアして得られる達成感がゲームで味わえる。このような色んな感情がゲームでは報酬となっていると塩田氏は述べている。
 次に、②について。現実世界ではそう上手くいかない。本来はゲームと同じように様々な感情が味わえるのだが、ゲームとは現実世界で言う仕事にあたり、ゲームと違って感情報酬を感じにくいのが現状である。
 その為、人は無意識であるが感情報酬を得たいと感じているため、企業に求められているのは「感情価値を提供すること」だ。人が求めている感情報酬とは、マズローの【人間の基本的欲求】である。RPGをテーマに取り上げたが、RPGやアクションゲームは「攻略」を目的としている。一方で、最近ではゲームの在り方にも変化が起きている。その一つが『マインクラフト』である。自分の建物を作ったり、ダンジョンに潜入してアイテムをゲットしたりとプレイヤーが自由に操作をすることができるゲームだ。このゲームには「目的」がないからこそ、その目的を自分で設定し、自由に遊べるのが最大の醍醐味である。かつて「攻略」がメインであった遊びが、「自己表現」に変遷しているのだ。
 最近では、YouTubeなどの動画プラットフォームも非常に勢いを増している。一般人が簡単に自己表現できる時代になっており、人生の在り方も、「攻略」から「自己表現」の時代に変わってきている。
 最後に、③について。Doingとは【行っている事業やサービス】を指し、Beingとは【組織やチームの在り方】を指す。つまり、DoingからBeingへ移り変わっているということは、今までは事業やサービスが重要と思われていた時代であったが、在り方や内側の想いの方がより重要な時代に変わってきたということだ。
  塩田氏は、次のように述べている。重要なのは、「感情を鍵に、心の扉を開く」ことだ、と。これに似たことを、『7つの習慣』でもコヴィー先生が述べている。「インサイド・アウト」。内側を変えて、外側を変える。ほとんどの人は、自分に不都合なことが生じると、外側や環境ばかりを変えようとし、自分の内側には一切気を使わない。しかし、自分が変わろうとすると、不思議なことに外側や環境も変わるのだ。だからこそ、先ずは、自分の内面の最も奥深くにあるパラダイム、人格、動機を見つめることから始める必要がある。

3. 【環境の中に潜む罠】

 日常生活の中には沢山の罠が潜んでいる。本書では、その一つとして、『偽ダイヤ』という言葉が登場する。偽ダイヤとは、その名の通り、ダイヤモンドの様に持っている人を輝かしく見せるが、本質の部分では偽物であるため、それは表面上の輝きでしかない。つまり、自分の深いところでは、「欲しい」と思っていないのに、「これさえ手に入れば」自分の価値が上がると思って偽ダイヤを求めてしまっていないだろうか、ということだ。
 例えば、本当の目的は別にあるのにも関わらず、ちょっとしたことで周りから自分の承認欲求が満たされ、そこに快楽を覚えてしまい、富や名声が虚偽の目的としてすり替わってしまう。
 大切なことは、その偽ダイヤを求めるレースから降りると決めること。もう一度初心に戻って、自分自身に問いかけてみる。自分の本当の目的は何だろうか。誰を幸せにしたいのか。などがゆっくりと見えてくるだろう。
 そして、仲間と感情をわかち合う事。お互いの分かち合いと問いを通して、自分の感情に繋がっていく。この分かち合いこそが、仲間も自分自身も成長させてくれる最強の思考なのかもしれない。

4. 【最後に】

 塩田氏は、「これからの時代、「意味があるんですか?」と切り捨てられていたものに価値が宿る。無駄で無価値と言われていたけど、無邪気に楽しめること、そういうものが目に見えない価値になる。感情価値を作る。」と述べている。多くの成功者や経営者も、この先の未来では、遊びが重要になると述べている人も多いのだ。
 具体的な企業を例に出すと、3Mは『15%カルチャー』を、Googleは『20%ルール』という独自のルールを設けている。これらは、勤務時間の15%や20%を自分のプロジェクトにあてる、という取り組みである。便宜上は結局仕事じゃないか、と思うが、これらの実態として、「やらなければいけない仕事から開放し、やってみたい仕事にのみ集中できる時間を認められることで、創造性に磨きがかかり、新たなアイデアを生まれやすくするための【遊び】」である。「遊び」とは、今後の未来においては非常に見逃せない重要な取り組みになっていくだろう。
 如何だっただろうか。非常に割愛した部分や私見を挟んでしまった部分も多々あるが、ぜひ一度本書を手に取って、塩田氏のエネルギー溢れる文章に触れてほしい。きっと心を動かされ、自分も頑張ってみようと思えるはずだ。

「一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、続けられないと僕は考えているので、地道に進むしかない。進むだけではなく、後退しながらも、ある時は後退しかない時期もあると思いますが、自分が『やる』と決めたことを信じてやっていくしか、それが正解とは限らないし、間違ったことを続けてしまう事もあるんですけど、そうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えない」 イチロー引退会見より。

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