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コンビニ店員の彼

シャッセー!カタコトの日本語だけどとにかく元気の良い彼。初めて彼の働く姿を見たとき、あまりの元気の良さに思わず笑みがこぼれてしまったのを覚えている。

職場近くの2軒のコンビニに、彼はいた。それらの店舗には外国からいらしたであろう店員さんがとても多く、まだ習いたての日本語なのか自信なさげに話す人が多かった。一生懸命頑張っていたので、自信なさげなのも微笑ましかったが、そんななかで彼ひとり、違う空気を纏っていた。カタコトなんて気にしない、誰よりも大きな声ととびきりの笑顔で、仕事が楽しくて仕方ないという感じだった。

とても元気で気持ちのいい、シャッセー!から、しばらくするといらっしゃいマーセー!ありとうざいます!またお越しくだシャッセー!になり、ここ最近はとても流暢に、いらっしゃいませ!ありがとうございます!まーたお待ちしております!になった。


彼のいらっしゃいませ!がどんどん上達していくのを、親が子の成長を喜ぶ気持ちってこんな感じ?と思いながら微笑ましく見守った。彼のシャッセーでもいらっしゃいマーセでもいらっしゃいませでも、聞けた日には気分がとても明るくなり、今日はツイてるなぁ、なんて思っていたぐらいだ。小さな子供に、赤ちゃん言葉で対応しているのを見たときには、頼もしくなったな、なんて偉そうなことを思ったりもした。


先日、おにぎりを購入しようとしたら期限切れでレジが通らなかった。別の店員さんがレジをしてくれていたけれど、彼が飛んできておにぎりを勢いよく掴んで、走って新しいものと交換してくれた。


申し訳ございません。お待たせしました。

いえ!ありがとうございます。

いつもありがとうございます。僕今日で最後なんです。福岡に行きます!

こちらこそ…え!最後?本当に?ど、どこに行くんですか?

福岡です。


そう言って彼は微笑んだ。一方的に成長を見守っていたつもりだったから、「いつも」ありがとうございます、と言ってくれたことには驚いた。いつも来るお客さんって、わかってたんだ。そんでもって、今日最後なんだ、そっか。あー、あなたの元気な接客にいつも元気をもらってたんだよ、いなくなるなんて寂しくなるじゃない。ここのコンビニにわざわざ来たい理由も、近いってだけになっちゃうし。

いろんなことが頭を駆け巡って悲しくなりそうだったけれど、元気な彼には元気よく、それが一番いい、そう思った。


福岡でも頑張ってくださいね!ありがとう!


その日、自分が自分の顔に浮かべられる最大級の笑顔を作った。とびきりの笑顔というやつだ。なかなかそんな笑顔、しないから、コンビニを出ても口角が上がったままだった。


福岡に行っても、その元気と人柄の良さがあればきっと大丈夫。彼の日本での暮らしが、彼にとって素晴らしいものになりますように。

#短いお話 #日記 #エッセイ

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