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URCを聴き直す②――ザ・ディランⅡ『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』

ザ・ディランⅡにおけるソウルフィーリング

大阪で開いた喫茶店〝ディラン〟を拠点にしたザ・ディランⅡのファーストアルバムにあたるのが、『きのうの思い出に別れをつげるんだもの』(1972)。〝ディラン〟という名前が付きまとっているためか、また、次作の『Second』のアコースティックなイメージからか、フォークの印象も強いかもしれませんが、その根底に流れるのはソウルミュージックのグルーヴだと、個人的には思っています。僕が感じているザ・ディランⅡの魅力もその点にあります。実際、アコースティックな『Second』においても、シンガーズ・スリーをコーラスに起用したのは、大塚まさじいわく「出来る限り黒っぽく、ソウルフルにやって欲しかったから」とのことです(『URCレコード読本』)。

もちろん、直接的な参照元として、ザ・バンドの存在は無視できません。URCからの先行シングルは、ザ・バンドの「I Shall Be Released」の日本語カヴァーである「男らしさってわかるかい」(アルバムとはヴァージョン違い)でした。大塚まさじは、同時代の音楽としてオーティス・レディングやアレサ・フランクリンを愛聴していたようですが、ザ・ディランⅡの音楽として表現されるときは、ザ・バンド流のフォークロックになっています。ただ、大塚が見出したザ・バンドの魅力に、ロビー・ロバートソンのギターとともに「黒人音楽」のような「アフター・ビート」があった(『URCレコード読本』)、ということは、やはり重要なことだと思います。

ということで、『きのうの思い出に別れを告げるんだもの』は、少しアシッドな雰囲気のあるフォークを基調にしつつ、ソウルのリズム感覚とコーラス感覚を盛り込むことで、素晴らしいサウンドになっています。その点で言うと、「男らしいってわかるかい」や「プカプカ」と並んで重要なのは、世界観やアシッドな雰囲気こそ大塚まさじの好きな休みの国のようでありながら、ゆったりとしたリズムのついた「うそつきあくま」なのではないか、という気がします。あるいは、ザ・バンド「The Weight」を感じさせる一方、もはやオーティス直径のソウルにも思える「君の窓から」やレイ・チャールズのような「子供達の朝」も素晴らしいですね。もちろん、フォークに寄った西岡恭蔵作の名曲「サーカスにはピエロが」も外せません。

ステイプル・シンガーズとの同時代性

さて、このようなザ・ディランⅡの根底に流れるソウルフィーリングについて考えたとき、僕が思い出したのは――これは見当外れかもしれませんが――ステイプル・シンガーズのことでした。これは、最近僕がURCとともにスタックスばかり聴いているからかもしれません。1968年にスタックスに所属するステイプル・シンガーズは、一般的にはメンフィスサウンドに乗った力強いコーラスのグループという印象が強いと思います。まさに、大塚まさじが愛聴していたオーティス・レディングやアレサ・フランクリンのカヴァーもしています(僕は中学生のとき、オーティスより先にステイプル・シンガーズ版の「The Dock Of The Bay」を聴いて、心底感動しました)。

興味深いのは、ステイプル・シンガーズが、公民権運動も盛り上がっている1960年代、フォークブームを意識しながら〝ソウル・フォーク〟と称して、ボブ・ディランやバッファロー・スプリングフィルドのプロテストナンバーなどを歌っていることです。スタックスに入ったのちも、初期の2枚のアルバム『Soul Folk In Action』(1968)『We’ll Get Over』(1970)は、〝ソウル・フォーク〟路線になっており、とくに『Soul Folk In Action』ではオーティスのカヴァーとともに、ザ・バンドの「The Weight」までカヴァーしています。また、『We’ll Get Over』のほうでも、ディランの『Blond On Blond』でもギターを弾いていたジョー・サウスの「Games People Play」(これはもはや、インナー・サークルのカヴァーがいちばん有名ですね)などをカヴァーしています。ザ・バンドを中心にフォークとソウルが重なっていくさまに、1970年前後のザ・ディランⅡとステイプル・シンガーズに同時代性を感じるのは自分だけでしょうか。でも、こういう個々のゆるやかな共鳴が同時代的な精神だと思います(おまけで言うと、同じことは1970年前後の筒美京平にも思います。ただし、筒美の場合はモータウン)。

ザ・ディランⅡの後継――のろしレコード

ザ・ディランⅡを聴いたのは、大学生のときにURC関連を漁るように聴いていたときですが、そんな僕が久しぶりにザ・ディランⅡのことを思い出したのは、2015年10月8日、坂口恭平『家族の哲学』刊行記念「坂口恭平ライヴショウ」にゲスト出演した、のろしレコードの演奏を観たときです。折坂悠太、夜久一、松井文によるのろしレコードは、最近も『OOPTH』(2019)という素晴らしい名盤を発表していますが、このときのライヴも素晴らしいものでした。

このとき、松井文の作による「のろし」(合奏ヴァージョン)という曲が披露されたのですが、この暖かいメロディラインが「プカプカ」を思い出させるものでした。その後、やはりザ・ディランⅡのような「I Shall Be Released」のカヴァーも歌われ、ひとり客席で「わあ、現代のザ・ディランⅡだあ」と感動していました。このときのライヴレポートは、『ユリイカ(特集:坂口恭平)』(2016年1月臨時増刊号)に「歌はどこまでもあなたとともにある」と題して書いたので、よかったら読んでみてください。その後ののろしレコードの面々の活躍は周知のとおりです。ちなみに、夜久一には「南十字星」(やく名義)という曲もあり、やはりザ・バンドのような世界観が抱えられていると思います。

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