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僕の生活は続いてく。


しとしと 雨が降る朝。

携帯が鳴った。
画面に表示されている時刻は午前6:00

「 よもちゃん、死んだよ。今朝起きたら死んでた。 」

母親によると、台所で横たわったまま、息を引き取ったらしい。昨日まで元気な様子が、妹から写真で送られてきてたんだけど。

18歳のおばあちゃん猫だった。



メインクーンの女の子、よもぎが実家にやってきたのは僕が8歳のとき。先輩の猫のアメショーのさくらさんとゴールデンレトリバーのモンとはわりとすぐうまくやっていたような気がする。初めての長毛種、ふわりとした長い毛がふわふわで気持ちよかった。

甘えん坊でよくお腹の上に乗ってきては、ぐるぐる 喉を鳴らして寝てたな。

よく喋る子だったので一緒に にゃあにゃあ言ってた。


反抗期に入った中学生の後半、部屋から出なかったり誰とも口を聞かなかったときでも、彼女は膝の上に乗ってきて「 撫でてよ 」と催促してくる。さすがに反抗することはなかったので、撫でさせていただきます...。ともふもふしていた。

高校受験のテスト勉強をしていても机の上に登ってきては教材の上に横になる。しっぽをバシバシ、当ててくる。誘惑に負けたり負けなかったり。弱音も吐いてた。「 ...高校、受かるかなぁ。 」彼女はあくびをして目をつむる。その度に、まぁなんとかなるか。とホッとしていた。


高校に入ってからは家族が続々と増えた。ラグドールのきなこ、捨てられていた3匹のちゃー、ごま、だいふく。( 拾われた当時は飼い主を探していたので「 チャー・シュー・メン 」という呼び名だった。) 2代目ゴールデンレトリバーのこむぎ、ラグドールのかのこ。動物だらけ。人より多い。


臆病だった彼女は、リビング奥にある昔ダイニングテーブルだったそれと窓辺を陣取り、そこを中心に生活を始めた。朝はそこから「 エサくれ 」と話しかけてくるのに「 はいはい。おはよう。 」と返すのが日課だった。


大学に入り実家を出た僕は、そんな会話をする機会がめっきり減った。そして在学中、一番年上のさくらが逝った。このとき、ずっといるわけじゃない。という当たり前を、強く認識した。

それでも僕は僕の生活を続け、彼彼女たちは彼彼女たちの生活を続けた。

当たり前が無くなるのがこわい。
わかっているし、仕方ないことだけど。僕はそれが本当にこわい。


そして今日、当たり前だった彼女が逝った。


一昨年くらいから少しずつ痩せていきボケも始まっていたらしく、もう長くないね。と聞かされていたので、覚悟はしていた。この前、仕事で関西に帰ったとき「 お兄ちゃんに会えるのも、最後かもね 」と母親がいつもの場所にいる彼女に向かって言った。

そんな言葉を他所に、抱っこするのもこわいくらい細くなった身体で僕の膝の上にひょいと乗ると「 撫でてよ 」と頭をすりよわせてきた。「 はいよ 」と頭を撫でると、機嫌良さそうに ぐるぐると喉を鳴らした。


東京は雨が上がって、少し太陽がでてきた。

当たり前だった彼女がいなくなった。午後。
現実なんだなぁと、写真を見返している。

寂しいし、悲しいし。

それでも、なんにもなかったかのように

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