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「”45秒のタイマン勝負”がでけぇ祭りになった」SASUKE大晦日決戦を赤レンガまで見に行った話

2018年12月31日。大晦日。平成最後に乗っかって、いろんなところでいろいろな催しが開かれていたこの日。僕は夕方から横浜・赤レンガ倉庫に足を運んでいました。それはTBSで放送されている「SASUKE」の大晦日特番、しかもファイナルステージを生放送で行うということで居ても立ってもいられず現地に赴いたのです。

「SASUKE」とは

TBS系列で放送される特番。毎回様々な職業・経歴をもった100人のチャレンジャーが集められ、4つのステージに分かれたさまざまな障害物をアクションゲームのようにクリアし、完全制覇を目指す番組です。1997年に初めて放送され、2018年末で36回目の開催。障害物は筋肉だけでも、テクニックだけでも決してたやすく乗り越えられないハードな代物。それだけに単なるゲーム番組としてではなく、障害を乗り越え、またある人は脱落していく様の悲喜交々を映し出したドキュメントとしても、多くのファンの支持を得ています。(詳細は公式サイトなどをご覧ください)

でも、今回は番組の魅力を伝える本筋とは別に、今後のエンターテインメントにも少なからず影響する事象として、書いておきたい事が生まれたので、この記事を書いています。

ファイナルステージを生放送で

SASUKEの一番最後、完全制覇をかけたステージは、約25mの高さを様々な方法で、しかもたった45秒で登り切るというもの。これまでこのファイナルをクリアし、完全制覇を果たしたのはわずか4名。回によっては、ファイナルには誰もたどり付けなかったことだってあるのです。

毎回100名の出場者がいて、25年近くやってもわずかな人数しかたどりつけないその最後のステージの様子を生放送、それも大晦日にやろうといういわば大博打をTBSが組んだのです。

難関に対峙する挑戦者が次々と脱落していくこの番組。もしかしたら、セットを組んだとしても、ファイナルに誰もたどり付けず本当に無駄になるかもしれない・・・。

その状況を作ってまでやり遂げようとするその心意気を見に行かない訳にはいかないな、という気持ちで足を向けたのです。制作側の意気込みは、下記の記事にて語られているとおりで、本気とも狂気とも取れる言葉が、大晦日の本番へと繋がっていきます。

突如あらわれた異様な「シンボル」

横浜赤レンガ倉庫は近年観光スポットとして多くの人が訪れる場所。例年だと大晦日にカウントダウンイベントが開かれ賑わいを見せています。その場所が今年は決戦の場に。

夕方4時半を過ぎたころ、みなとみらいから赤レンガ倉庫へ向かって歩き、ワールドポーターズ裏の歩道橋にあがると、ひょっこりと頭を出す異様な物体。

どこからどう見ても鉄骨の塊。しかも見事なまでのライトアップ・・・。「異様な光景」というほかありませんでした。そして近づいていくと・・・

「なんじゃこりゃ」以外のなにものでもありません。レンガ作りのレトロな建物の奥に、ただの鉄骨むき出しの建造物がそびえ立っていて、しかも赤レンガよりも神々しくライトアップされている・・・。ただただ笑ってしまいました。

夜が進み、あたりが暗闇に包まれていった中で、照明がかわるとその冷血な感じと、威厳というかものすごい「圧」が目の前に迫ってきました。

いままではテレビの中だけでしか見られなかった姿。今、目の当たりにしてただあっけにとられてしまいました。対峙する人間の意欲を無に追い込むまんとするその姿勢に、なぜかは解らないのですが、感動を覚えました。

周囲の状況

赤レンガ倉庫の広場周辺には、約10店舗ほどの屋台・キッチンカーが連なります。海風が想像以上に身体を冷たくさせるなかで、温かい食べ物は本当にありがたい限りです。あの雰囲気がまた、単純な番組収録とは違い、お祭りっぽい要素としていい感じだなあとおもいました。

そして18時、番組がスタート。放送開始前から現場に陣取ることができたので、当日の実況である安住アナウンサーの軽快な進行も目の前でみることができました。タワーの隣に大型モニター車輌を用意してくださっており、実際のテレビ放送の様子もそちらでみられます。ある意味、テレビの前よりも特等席に感じました。

現場では終始、訪れた人が次々に写真を撮っていくのがよく目につきました。もちろん珍しい光景ですし、これを残してきたいとか、誰かに伝えたいなどでシャッターを切っていた人は少なくないのでは、とおもいます。

番組本編は1st・2ndステージと進むごとにチャレンジャーが脱落していき、徐々にその人数が減っていきます。会場では、誰かが脱落するたび「あああっ!」というため息や悲鳴があちらこちらであがります。その場に集まった人が食い入るようにモニターを見つめ、目の前のファイナルステージにチャレンジャーが現れることを待ちわびる空気ができあがっていました。

僕の斜め前1メートルにいた女性が、ずっと拝んでいたり、また手を合わせていたりするのが見えました。もし途中で全員が脱落したら、僕たちがこの赤レンガに集まった意味はほぼ皆無になるわけで、挑戦者に感情移入をするだけでなく、目の前で奇跡を見たいという期待を載せての祈りだったのかもしれません。


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ここからはややネタバレを含みます。番組をまだ視聴しておらず、結末を知りたくない方は、本放送をご覧になってから読まれることをおすすめいたします。
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そして、祭りになった

番組開始から約4時間半。3rdステージに10名が残った展開に明るい雰囲気が漂ったかとおもいきや、次々と脱落していく展開に。ふと上を見上げると、ゴール地点にある旗が強い勢いで風になびいています。

待っている側の自分もいよいよ寒くなってきて、足が芯から冷えているのを感じます。「もしかしたら誰もファイナルにこられないのでは?」そういう予感もよぎります。本当にただこの鉄の塊を見つめるだけになってしまうのか・・・。

しかし、一人の男がやってくれました。

一番完全制覇に近いと目された、サスケくんこと森本さんが見事3rdステージをクリアし、ファイナルへ進出することになったのです。ファイナルへ進出した瞬間、VTRだというのにその場で巻き起こる拍手。それはステージをクリアしたという喜びと、そして目の前でその先をみることができるんだ、という興奮が混じったものだったとおもいます。


そして、ファイナル。

後を振り返ると、この頃にはすでに会場はあふれんばかりの人で埋め尽くされていました。実際に番組をみていただくとやや高いところから撮影された映像があるのでわかるのですが、広場の後のほうまで人がびっちり。その場から動くことができませんでした。

全員が固唾をのんで見守るなか、残った一人に全員の視線が集中します。

何人この場に立つかわからないなか、最後のためだけに作られたセット、集まった人・・・これを実現するのにどれだけの時間と予算がかかるのか・・・そう考えると何もかもがむちゃくちゃです。

会場からは森本さんへの声援がひっきりなしに飛びます。すべての準備が整い、そして勝負の時。


今までみたことのない45秒間でした。25mもの高さを人間とは思えない驚異的なスピードで登っていく姿に釘付けになりました。

吸い付くように壁をのぼり、
鉄棒を自らの腕力をもって一段ずつ突起にかけのぼり、
そして最後のロープをたぐり寄せ・・・

それまで映像だけで見てきた光景が、こんな場所で見ることができるなんて。

あと1秒あればたどりつけるかという距離まで到達したとき、無情にもタイムアップ。完全制覇はなりませんでした。

しかし、その姿に惜しみない拍手がおくられました。間違いなくその場にいた全員の気持ちは目の前の「鋼鉄の魔城」へ向けられていました。

「視聴率」の外に理由をつくる

結果として数字がよくなかったというのはあるかもしれませんが、僕はそれ以上にこの番組がこれまで長く続いた要因の一端と、そしてこれからも長く続く芽吹きを見たような気がしています。

まずあえて、「最後を外で、しかも生放送でやる決断をした」ということは大きかったでしょう。先に挙げた記事にもあったようにスポーツ要素の強いものは、やはり生で見られることが一番ですし、結末の解らないドラマをみるハラハラ感はいくら作り込んだ番組でも得ることはできません。

また、昨今一般参加の番組では参加者、観覧者によるSNSなどでのネタバレ行為により、番組が大きな「損害」を被ることが時折起こるなかで、誰も結果をしることができない「生の勝負」を見せることができ、ネタバレを回避できるというメリットがあります。

そして外でやる、ということは番組をまだ知らない人、そして知っているけど興味が薄い人に対して圧倒的なアピールになったのではないかとおもいます。あの技をテレビの前でみるのと、目の前で見るのとでは、明らかに印象の残り方もちがいます。それがまた新たなファン獲得に繋がっていきます。

大晦日は特に多くの人が様々なイベントにでかけ、テレビから離れていくなかで、いかに番組に触れてもらえる機会をつくれるか、その一つの答えがこの催しだったのでは、とおもいます。

制作サイドの皆様が、”ファイナル進出者ゼロ”というとんでもないリスクを賭し、それと引き換えに作りたかったものは、まさにこの会場の盛り上がり、空気、だったんじゃないかな、とおもいます。

また現場ではSASUKEの番組グッズが販売されていました。当日を記念したフェイスタオルも。(購入しました)

こういうグッズ一つとっても、現場を盛り上げようとする意気込みというか、意図が伝わってきます。それと共に、番組が続いていくいち要因だよなあとおもうのです。

SASUKEの出場選手をこの時間に集めたことや、生放送一発本番において失敗できないなかでの完璧な演出など、いろいろ要素はあるとおもうのですが、ここまでのことをひっくるめて決して視聴率だけに頼らない、テレビの箱の外に「番組を見る動機(視聴者)」「番組を続ける理由(制作者)」「番組に参加したいと思う気持ち(出場者)」をそれぞれ作りだしたと、そう感じます。


ファイナリストとして残った森本さんがこんなツイートを残しています。

今書いたことが、本当に起こっている、その証拠かなと。こんなエンターテイメント、めったにみられないですよね。

本当に、この場に立ち会えて良かった。


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