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『わが芸当ー笑うホームレスの旅日記ー』岡本ジュンイチ

普段小説を読まないやんやんであるが、この度、ちょっとしたご縁から岡本ジュンイチ氏の小説を拝読させてもらう機会を得た。

岡本氏とは、以前、やんやんのまわしよみラジオに出演してもらって以来の仲である。

もう3年も経つのか。あれから随分と作品も発表されたようで、どんどん大きく成長されている。

なんでこんな出だしから入ったからというと、やんやんの場合、小説を読むときは、まず作家さんについて知ろうとする。作家さん自身の生い立ちや思想・信条など、それが作品に反映されるからだ。なので、まず作家さんの話から入ってみた。

さて、その上で岡本ジュンイチ氏の『わが芸当』について。

ざっというと、売れない芸人が、自分の一日を15円で売り、その様子を配信するというもの。依頼者は、やさしい中年夫婦だったり、ブラックな工場長だったり、と。 いろいろだ。 あたりの良い人もいれば、悪い人もいる。漫画の吹き出しのようなポップな会話のやり取りが、とてもテンポよく、読み易い。やんやんはロスト・ジェネレーションであり、就職活動にとても苦労した世代だ。厳密には、今も苦労している。苦労しているどころか、就職活動が嫌になり、自分で独立しちゃった(笑)

さて、それはさておき。

自分も、仕事にあぶれて苦労した分、この主人公の気持ちがよくわかるし、ある程度自分で仕事が作れるようになった今、「そうじゃないんだよな~」という風に思える部分。多角的に楽しめるのは、この作品の強みだと思う。

主人公の名前は袴田というが、何も袴田の視点だけで物語を読む必要は全くない。各回にでてくる依頼主や、配信を見ている視聴者たちに感情移入するのもよいだろう。読者の経歴や、心の成長の段階で、何度も何度もこの小説を読み返すことによって、そもそも袴田という人物がどういう人間なのか、見方が変わってくるのが面白い。登場人物の趣味・嗜好など、本文に書かれていないところは、想像力を補いながら読んでいくのが、この小説を読むときの醍醐味だろう。

「15円で、自分の時間を売る」、この奇抜な発想の中に、一層人間の本質が露呈される。この一見、コメディーのような作品に、なんともいえない悲しき人間の業—トラジディを見た。



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